研究課題/領域番号 |
20K04804
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
辻村 壮平 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 准教授 (80409458)
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研究分担者 |
朝倉 巧 東京理科大学, 理工学部機械工学科, 講師 (60778207)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 集合住宅 / 音環境 / 騒音問題 / 騒音感受性 / 個人差 / 騒音レベル / 評価構造 |
研究実績の概要 |
新たな社会問題となっている静寂な音環境においても生じる騒音被害に対して解決策に繋がる知見を得ることを最終的な目的に掲げ、2020年度は騒音感受性の違いに着目した集合住宅の音環境に対する居住者の反応を検討した。首都圏を中心に近畿や中部、九州、北海道地域の全国の都市部において、インターネットを利用した集合住宅の居住者を対象に住まいの音環境に関するアンケート調査を2020年11月に実施した。 まず、事前アンケート調査として、「住まいの形態」や「住まいの遮音性能の印象」、「騒音感受性」、「日常生活での自身の聴力の印象」を訊ね、その結果から、集合住宅に住んでいて日常生活に支障のない聴力を有しており、騒音感受性と住戸の遮音性能の高低について組み合わせた四つの群が概ね同数となるように816サンプルを抽出した。その後、本調査を実施し、集合住宅で生じている騒音の現状把握と、居住者の騒音感受性の違いによる騒音源に対する評価の差異を検討した。上階や隣室から聞こえる音の種類として、足音や物の落下音、扉の開閉音、掃除機の音、家具の移動音が気になるという指摘が多く、それぞれ2~3割程度であった。これらは主観的にも大きいと感じられていることが確認された。一方、自宅で発生している音については、掃除機の音や換気扇の音が気になるという指摘が3~4割で、次いで洗濯機の音、家電(冷蔵庫など)の機械音、テレビの音、トイレの行為音、トイレや浴室・台所の給排水音の指摘が2~3割程度であった。これらの音源は主観的には小さいと感じれていた。さらに、騒音感受性の違いによる評価の差異を検討した結果、騒音感受性が低い群よりも高い群の方が、主観的には小さい音源に対して気になると指摘されている割合は高い傾向がみられた。騒音感受性の高い群は自室で発生している騒音レベルの低い音源に対して不快感を生じやすい可能性があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画では、2020年度に集合住宅で生じている騒音の現状把握ならびに居住者の騒音感受性の違いによる騒音源に対する印象や被害状況の差異を捉えることを目的に、集合住宅の居住者を対象に音環境に関するアンケート調査を実施し、その結果を踏まえて、2022年度に外部から室内に透過する騒音と周辺居室から透過してくる騒音、室内で発生する騒音に分離してそれぞれの音圧レベルの調整を行い、これらを統合して音環境条件を設定した聴感実験を実施するため、2021年度にそのための視聴覚情報再現システムの構築や音源データの作成を行うことになっていた。 当初の研究計画のとおり、2020年度はインターネットを利用した集合住宅の居住者を対象とした音環境に関するアンケート調査を実施し、主観的には小さい印象である音源に対して居住者の騒音感受性の個人差の影響を検討し、高感受性群では騒音レベルが低い音源であっても不快感を生じやすい傾向があることを示した。さらに、2022年度の聴感実験に向けて、視聴覚情報の検討を進めている。視覚情報はUnrealEngine4を用いて集合住宅のリビングや寝室のVR空間の作成を行い、聴覚情報についてはMATLAB及びCatt Acousticにより外部騒音、隣室からの騒音、自室内で発生する騒音に分けて音源データの検討を進めた。以上より、2020年度においては当初の研究計画通りに順調に進められている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、2022年度に実施する聴感実験のための視聴覚情報再現システムの構築を目的としており、そのための視覚情報及び聴覚情報を実環境において収集を行い、聴感実験に向けて視覚情報データと音源データを作成する予定である。当初の計画では2020年度に実施したアンケート調査の協力が得られた回答者から遮音性能の高低と騒音感受性の高低の4水準の条件で、実環境の音響特性データを収録する予定であった。しかしながら、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、2021年度の今後の社会状況によっては現場測定の実施が困難となる可能性もあるため、2020年度からシミュレーションによる視聴覚情報再生システムの構築を並行して進めており、居室空間のシミュレーション映像の作成方法やツールについて検討を行っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に実施する聴感実験のための防音ブースの購入を2020年度に計画していたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて防音ブース設置に係る費用が申請時の見積もりより高騰してしまったため、2021年度の予算と合わせて防音ブースの購入・設置を行うように使用計画を少し変更した。しかしながら、研究計画自体に大きな変更はなく予定通り進められており、防音ブース内で使用する視聴覚情報再現システムの構築に向けて検討を始めている。以上の理由により、2020年度においてはアンケート調査の実施に係る費用のみの支出となり、2021年度の使用額が生じてしまうこととなった。
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