研究課題/領域番号 |
20K04804
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
辻村 壮平 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 准教授 (80409458)
|
研究分担者 |
朝倉 巧 東京理科大学, 理工学部機械工学科, 講師 (60778207)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 集合住宅 / 音環境 / 騒音問題 / 騒音感受性 / 個人差 / 騒音レベル / 許容範囲 / 評価構造 |
研究実績の概要 |
2021年度に集合住宅の居室の視環境と音環境の実環境データを収録する予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて現場測定の実施が困難となったため、2020年度より並行して検討を進めていたシミュレーションによるVR空間を聴感実験に用いることとした。まず、実環境に近い視聴覚刺激の獲得に向けて、①3D視環境生成プラットフォームUnreal Engine 4による視覚情報の作成、②居室の暗騒音と外部から開口部を通して居室に侵入する自動車走行音を模擬するための実住戸内及び一般道路沿いでの音環境の測定・収音、③幾何音響解析ソフトウェアCATT-acousticによるインパルス応答の算出を行った。これらのデータを用いて集合住宅の居室内の視聴覚環境の再現システムを構築した。その後、このシステムを用いて調整法を用いた聴感実験を実施し、昼間にリビングでくつろいでいるときと夜間に就寝しようとしているときのそれぞれの状況において家庭内で発生する音に対して、居住者の騒音感受性の個人差や自住戸の遮音性能に対する印象の違いによる不快感(煩わしさ)を感じ始める騒音レベルの差異を検討した。 その結果、次のような知見が得られた。昼間より夜間の方が煩わしさを感じ始める騒音レベルは6 dB程度低く、特にトイレの音に対して夜は昼より煩わしさを感じやすい。居住者の騒音感受性の違いで比較すると、煩わしさを感じ始める騒音レベルは低感受性群より高感受性群の方が夜間で約19 dB、昼間で約10 dB低い。遮音性能の高低と騒音感受性の高低の4属性のうち、高感受性で高遮音性能の属性群が煩わしいと感じ始める騒音レベルは最も低く、他の属性に比べて煩わしさを感じやすい。外部からの自動車交通音を加えると、家庭内で発生する音に対して煩わしさを感じ始める騒音レベルは夜間で約7.5 dB高くなる傾向がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の2021年度の研究計画としては、2021年度と2022年度に実施する聴感実験のための視聴覚情報を取得するために、2020年度に実施したアンケート調査の協力者の中から遮音性能の高低と騒音感受性の高低の4水準で各条件に当てはまる居住者に再度依頼し、2021度に集合住宅の居室の視環境と音環境の実環境データを収録する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて現場測定の実施が困難となったため、そのような場合でも研究計画を達成できるように2020年度より並行して検討を進めていたので、聴感実験の方法をシミュレーションによるVR空間を聴感実験に用いるように切り替えることができた。 聴感実験に用いる視聴覚刺激に多少の変更は生じたが、2021年度は実環境に近い視聴覚刺激を提示するための集合住宅の居室内の視聴覚環境再現システムを構築し、家庭内で発生する比較的騒音レベルの低い音源に対して調整法を用いた聴感実験を実施した。その結果から、煩わしさを感じ始める各音源の騒音レベルやその昼夜の差異、居住者の騒音感受性の違いと煩わしさを感じ始める騒音レベルの関係、家庭内で発生する音の煩わしさに対する外部の自動車交通音の影響を定量的に示した。さらに、2022年度の聴感実験に向けて、視聴覚情報や実験協力者の属性について検討を深めている。以上より、2021年度においては申請時の研究計画通りに順調に研究を進められている。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度には、騒音感受性が高い20名と低い20名の計40名の被験者数となるように引き続き聴感実験を実施する。さらに、2020年度のアンケート調査結果及び2021年度の聴感実験の結果を踏まえ、外部から室内に透過する騒音(外部騒音)と周辺居室から透過してくる騒音、室内で発生する騒音に分離してそれぞれの音圧レベルの調整を行い、それらを統合した音環境条件とした聴感実験を行う。外部騒音のレベルを変化させたときの室内で発生する騒音や周辺居室から透過してくる騒音に対する心理評価データを得る。 その後、騒音感受性などの個人属性を要因とした重回帰分析やロジスティック回帰分析など多変量解析を行い、騒音感受性の違いによる居室の音環境の評価構造の差異を検討する。また、これまでに得られた知見を体系的に整理し、静寂な音環境における不快感の発生メカニズムの解明とその対策に繋げる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に実施する聴感実験のための防音ブースの購入を計画していたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて防音ブースを設置する施設の改修工事が当初の予定より延びてしまったため、未使用額が生じた。そのため、2021年度の予算と合わせて2022年度に防音ブースの購入・設置を行うように使用計画を立てている。しかしながら、このような状況も想定して安全側で研究計画を組み立てていたことから、研究計画自体に大きな支障はなく予定通り進められている。防音ブース内で使用する視聴覚情報再現システムの構築及び実験刺激の作成に向けて準備は始められている。
|