研究課題/領域番号 |
20K04860
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研究機関 | 東京工芸大学 |
研究代表者 |
八尾 廣 東京工芸大学, 工学部, 教授 (50509750)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | モンゴル / 定住 / 住まい / 都市 / 住居改善 |
研究実績の概要 |
今年度はCovid-19の影響も収束に近づき、現地調査を行える状態となった。しかし、住居調査にはまだ住民の抵抗意識も強いと見られたため、公文書館での歴史的資料調査に集中した。他分野の研究者との共同研究を含む研究・実践活動についても引き続き実施した。 1)モンゴル国立公文書館における社会主義時代の資料に関する調査 モンゴル国立公文書館所蔵の社会主義時代の建築に関する資料について調査を実施した。社会主義時代の集合住宅の設計図書については、①1940年-93年に図面が作成された、公務員やソビエト連邦の役人向けのアパート②1964-86年に図面が作成された、労働者向けのアパート の2編にまとめられていた。各々の一覧より複数年代における実施設計図書の詳細なスキャンデータを入手した。1946-47年の設計図書には、インキングによる図面トレースを行なった者の名前として、8名の日本人抑留者の自筆と思われる署名が発見された。図面作成が可能な抑留者が都市建設時の設計に関わっていたことを示す貴重な記録である。このほか、都市計画関連の図面も所蔵されていることが判明し、行政区ごとに描かれた詳細な街路計画図の一部を入手した。いずれも1940-80年代におけるウランバートルの都市計画、住居建設計画とその変遷を把握する上で貴重な記録であり、今後も調査を継続する。 2)鳥取大学乾燥地研究センター共同利用研究に継続参加し、「古写真を用いた景観GISの構築」と題する研究を推進した。 3)NPO法人GERにおいて毎月定例研究会を実施し、日本の建築・都市計画分野の専門家、モンゴル科学技術大学土木建設学部の研究者らと住居改善に関する情報交換を行なった。 4)情報発信としては11月、12月に在日モンゴル人博士会、神奈川大学アジア研究センターにおいて近現代モンゴルにおける定住や都市に関する招待講演を行い多くの反響を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度もウランバートルのゲル地区および社会主義体制下で建設された集合住宅の現地調査は遂行できなかった。Covid-19の影響は収束しつつあったものの、まだ住居内の調査に対しては住民の抵抗意識が大きいと見られたためである。このため、公文書館での資料調査を集中して行ったが、詳細な設計図書を入手し、社会主義時代の集合住宅建設計画の概要が把握でき、都市計画関連の資料の存在を発見するなど、今後の研究を推進する上での貴重な情報を入手することができた。また、鳥取大学乾燥地研究センター共同利用研究においては「古写真を用いた景観GISの構築」に関連する現地調査を実施した。近現代モンゴルにおける都市・定住にまつわる歴史的な軸と空間、景観に関する研究を進められたことは大きい。実践面ではNPO法人GERにおける住宅建設プロジェクトが実施され、ゲル地区の住居改善に向けての構法的な技術検証についての情報共有がなされた。2020、21年度に現地における調査研究、実践活動ができなかったことの影響は大きいが、徐々にではあるが研究の完遂に向けての歩みは進められている。次年度は住居調査を実施する予定であり、鋭意研究と実践を推進してゆく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は夏季に比較的長期間(1ヶ月)現地調査の期間を確保し、本研究課題の核をなす、現地におけるゲル地区および社会主義体制下に建設された集合住宅の住居調査および資料収集を集中して行う。住居調査については、調査可能な住戸は限られているものの、少なくとも10件以上は調査する予定である。また、公文書館での資料調査については今年度の調査結果を踏まえ、集合住宅の計画図のほか都市計画関連の資料も入手し、必要な情報の収集を完了する予定である。 実践的研究であるゲル地区の住居及び住環境改善のマニュアル配布の社会的実験については、今年度、ゲル地区のコミュニティー環境改善の活動家より、公園に日本人抑留者記念館の設計を依頼されたことを契機として、具体的な小規模建築の現地建設の実践(設計)に着手する。本件の設計・現地建設のプロセスで得られた技術的知見をゲル地区における住居改善に関するウェブサイト等を通じた情報発信に連携し、 住居改善のための知識を体系的かつ多角的に現地の人々と情報共有することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19によるパンデミックのため、2020-21年度の2年間、海外での調査・実践的活動ができなかった。今年度に引き続き、次年度も海外調査費として使用する。次年度は1ヶ月の長期調査期間を確保し、調査旅費のほか現地における通訳、ドライバーの業務委託費、公文書館での資料収集費として使用する計画である。
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