これまでに建設された土木工作物などは,過去に設定された設計雨量に対応して設計されている.今後,過去に設定された国内における設計雨量に対する信頼性が損なわれる懸念がある.また,気象台で記録される降水量から日最大1時間降水量を算出した場合,その統計値と実際の局地集中豪雨の状況が不一致となるケースがある.従って,都市洪水の対策を講じるために,前提となる設計雨量の再現期間の算出方法を検討する必要がある.そこで,申請者らは大阪湾に面する8つの気象台における日最大1時間降水量X1から最大値を抽出して発生頻度を算出した.その結果,本研究で開発した手法を用いることによって,X1=100mm/hとなる場合の再現期間は21年となることを明らかにした.一方,神戸地方気象台のみで算出したX1=100mm/hの再現期間は285年となることを明らかにした.そこで,本研究は若狭湾,伊勢湾,東京湾,九州地方,瀬戸内海における確率降水量を算出し,各地域における確率降水量を算出した.なお,ここで言う確率降水量は,日最大1時間降水量とその再現期間である. 地域を代表する確率降水量を用いて,本研究は考古学と工学を用いて大雨と歴史的事象について検討した.その結果,福井県福井市の一乗谷にある上城戸が国内外最古の透過型砂防堰堤であることを明らかにした.この上城戸は戦国時代の朝倉氏によって城壁として建造されたものである.なお,これまで国内最古であった砂防堰堤は江戸時代の福山藩によって,堂々川流域において1700年代に建造されたものであった. 以上のように,本研究の研究成果は考古学と工学に展開でき,地域を代表する確率降水量を用いて大雨と歴史的事象の新たな解明に展開できる.なお,本研究で発表した研究論文は福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館に登録されている.本研究による査読論文は合計3件,口頭発表は合計16件である.
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