研究課題/領域番号 |
20K04870
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
清水 肇 琉球大学, 工学部, 教授 (40244280)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 歴史的環境 / 近代化遺産 / 沖縄 / 場所の記憶 |
研究実績の概要 |
2023年度においては、沖縄の神社風の拝所に関する調査研究、首里地域の戦前戦後の町に関わる記憶に関する研究を実施し、研究資料の収集活動として韓国、済州大学が所蔵する沖縄戦時の沖縄の米軍撮影空中写真の資料の複写に関わる活動の進展をみることができた。 神社風拝所については、沖縄の近代の文化的資産の中で、沖縄固有の信仰の場所である拝所が琉球の日本併合以降の変容として生じたと考えられるものであり、それらの形態に関わる実態と祭祀の場としての意味について調査研究を実施した。神社風拝所の形態について、現地観察調査をもとに祭祀場所と祭祀対象の関係から類型化を行い、沖縄県内の神社風拝所の形態の全体像を明らかにした。さらに実際の祭祀についての地域関係者の聴き取り調査を行い、祭祀場所である拝殿と祭祀対象である本殿を概念上分離する日本の神社形態に類似していながら、信仰の対象が必ずしも本殿に集約されておらず、沖縄の固有信仰の概念と祭祀方法を神社風拝所の中で適宜実施している実態を明らかにすることができた。 首里地域の戦前戦後の町の記憶に関わる調査では、ニシカタ地区と呼ばれ、王府時代の屋敷町であった当蔵町、大中町における資料収集と整理、地域の高齢者の聞き取り調査を行い、戦前の町並み、沖縄戦直前の状況、戦時の被害と戦争直後の米軍による地域改変、復興時の経緯と様子など、地域の場所の記憶の詳細を明らかにすることができた。 研究資料の収集として、沖縄戦時に米軍が沖縄県内で撮影した空中写真資料で韓国、済州大学に所蔵されているもの約1600枚について、現地での写真の画像(紙版およびスキャンデータ)確認を実施し、特に高精細であるものや撮影角度と構図に特色があるものの複写の要請手続きを行うことができた。本件については、2023年度内に閲覧と複写要請を行い、2024年度において複写データが入試できる見込みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度から2022年度までは、新型コロナウィルス感染症の流行による行動制限のため現地調査と関係者の聞き取り調査が困難な状況があり、予定していた調査の70%程度を実施するペースで研究を進めてきた。 2023年度には、行動制限がほぼなくなったために、宮古地区、八重山地区、沖縄島北部などの現地調査を多く実施することができ、現地における聴き取り調査も計画通り実施することができた。そのために2022年度までの研究の遅れを相当程度リカバーすることができたが、まだ若干遅れている面がある。 空中写真の複写データの入手については、韓国への渡航および現地での行動に制約が大きい時期が続いていたが、2023年度に現地関係者との調整が可能となり、また、写真を所蔵する主体が済州大学の地理教育学専攻から済州大学博物館に変わり、閲覧の手続や費用についての条件が大きく改善されたため、懸案であった資料収集活動の障害が解消され、資料入手の手続を進めることができた。 以上の状況により、2022年度までの研究の遅れは2023年度に大きく改善されたが、当初の予定の全てを実施するには至っていないため、やや遅れている状況と認識している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究および研究に関わる活動課題は、沖縄における近代の地域環境変化が持つ多面的な意味を論理的に整理するという理論面と、場所の記憶の継承に関わる実践面の両面がある。 理論面については、近代化の基本的な側面である産業社会化の側面と関連して、琉球固有文化への日本文化の影響や地域社会における建設技術や環境改変の活動への近代技術の影響まで多面的に検証していく。 場所の記憶の継承活動については、とくに首里地域において研究成果の地域への還元と共有をモデルケースとして進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度までの3年間は、新型コロナウィルス感染症による行動制限のため、調査活動の規模と回数が制限されていたこと、韓国における資料収集が実施できなかったこと、学会での発表が学会発表や大会実施のオンライン化により旅費を支出しなかったこと、以上の3点により、次年度使用額が大きくなっていた。2023年度は、調査活動を活発化して宮古島、石垣島の調査も実現して必要な旅費を出費し、韓国での資料収集活動も実施し、県外で実施された学会大会や集会における発表も実施した。以上によって、次年度使用額は2023年度よりも大きく減らすことができたが、次年度使用額はまだ残る状態となった。 2024年度も県内の調査活動および県外での学会発表等を積極的に行うことにより、研究費を有効に支出していく計画である。
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