研究課題/領域番号 |
20K04882
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研究機関 | 長崎総合科学大学 |
研究代表者 |
橋本 彼路子 長崎総合科学大学, 工学研究科, 教授 (60583523)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 障がい者 / 高齢者 / 地域拠点 / 生活介護 / 通所介護 / 避難所 / 就労支援事業 / 避難弱者 |
研究実績の概要 |
2021年度もコロナ禍の中での活動であったため、直接に障がい者・高齢者に会っての活動は難しかったが、日常・非日常の斜面市街地の総合的住環境を調査するため、当事者と接触しない調査方法で行うこととした。 具体的には、社会福祉法人 南高愛隣会の地域拠点LOCAL STATION STELLA(長崎県長崎市鳴見町)に協力をいただき、TERRACE からふる(生活介護、通所介護)、WORK ながさき(就労支援事業B型)、HOME ながさき(共同生活援助、短所入所)、BRIDGE ぴーぷる(相談支援)、グループホーム(共同生活援助 あかりホーム)を視察した。これらは新築で入居前であったため、詳しい現地調査が可能となった。また、南高愛隣会の長崎市内の就労支援事業B型 QUONチョコレート長崎店(長崎市住吉町)も訪問し、NPOスタッフにヒアリング調査を行うことができた。 斜面地都市である長崎市では、過去に大きな水害を経験しており、住民も台風や暴風雨について関心が高く、非日常の住環境となる避難施設に着目した。令和2年の台風10号の接近の際、大きな被害発生の危険性が繰り返し報道されて、斜面地に位置する地区では地域住民の多数が避難した。長崎市東部に位置する斜面地地区の行政施設としてH地区ふれあいセンター、学校施設として長崎市立Y小中学校に、避難所としての使用時の開設から閉所までの状況のヒアリング調査を行った。行政側のスタッフと避難した住民の行動の原因となる現場の状況・求められるニーズが、時間毎の人々の動向から理解が進むことに着目し、各平面図上に時系列に人々の動向を記録し、利用実態の把握をすることにした。また、長崎市の中心部にあるK公民館は最多数の住民が避難したということで、同様に記録と分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地域の拠点LOCAL STATION STELLAは、意識の高い施設で利用者がストレスなく過ごせるように各所に配慮がみられた。TERRACEからふる(生活介護、通所介護):65歳以上になっても通うことができるように通所介護も行っている。定員は毎日20名で利用者は若い人が多い。座ることが辛くなった人は畳で横になることができ、個室で落ち着くこともできる設えになっている。スヌーズレン室があり、ウォーターベッドを設置し、落ち着く音楽(小鳥のさえずりや海のさざ波の音など)や香りを用いて演出している。WORKながさき(就労支援事業B型):事務所は2重床になっており、部屋は広くパーテーション等で区分調整できる。継続就労支援B型の支援室があり、チョコの製造や箱折を行うことができる。共同生活援助あかりホーム:入居者は10代の男性が多く、玄関に鍵がかかっていないため、自由に外に出ることができる。部屋の窓を開けるとそこからも外に出ることができ、利用者の自由を尊重している。ユニットケアを行っている。 各避難所の調査では、人の動きを時系列で平面図を使って分析することで、現場の状況・住民や職員の時々の心情や判断を把握し、ニーズ・課題を知る有効なメソッドであることが明らかになった。具体的には以下の3点である。①避難所には空調設備があり、近くにトイレがあることは必須である。特に高齢者や障がい者において不可欠であることから、玉突き的に子育て世代が移動してこれらの設備が整った場所を空けなければならなかった。②子育て世代や刺青のある人々は周囲に常に気をつかい、自ら部屋を譲ったり個室に行くことを望んだりしていた。身体的物理的だけでなく心理的な背景なども避難所の配慮として求められる。③避難所として部屋の規模が大小あり畳敷など多様な設えであることが、さまざまな状況に対応できる。
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今後の研究の推進方策 |
日常・非日常の斜面市街地の総合的住環境を引き続き調査するため、研究方法としてはコロナ禍がどのようになっていくかは不明瞭な環境ではあるが、最適な調査対象やその方法を選んでいく柔軟な計画としていきたい。状況が改善していけば、直接施設に赴き、当事者やスタッフのヒアリング調査を行い、実際に生活介護、通所介護の様子を観察し記録できる。それが難しい場合は電話やWEB会議システムなどでのヒアリング調査で代替えする予定である。現在、すでに心身に障がいのある方を対象にサービスを提供する複数の障がい者団体には連絡を取り、コロナ禍状況の改善を待って調査を行う予定となっている。 また、近年は障がい者に対する福祉サービスの質も向上し、切れ目ない対応が図られ、地域の中で当たり前の生活を送ることが可能となってきたが、長崎市のように斜面地市街地では、今もなお地域で暮らす事が出来なくなる、もしくは地域の中で困難を抱えながら暮らしている方々も沢山いる。斜面市街地の総合的住環境の重要な要素として、アクセス問題の課題を明らかにして高齢者・障がい者等の継続的居住のための実現性のある提案を行いたい。課題の抽出と分析のために、アクセスを主として介護サービスを行っている事業者にも調査への協力依頼をしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コロナ禍で学会活動や他大学の研究者との意見交換を十分には行うことができず、また、計画していた施設訪問による現地視察やヒアリング調査も限定的な実施となり、その結果として交通費・人件費・物品費等の支出が予定よりも少なくなっている。しかしながら、次年度でコロナ禍の状況が改善されれば、本年度実現できなかった方法での調査や研究も可能となり、その費用として使用することとしたい。 具体的には、前述の「今後の研究の推進方策」にも述べた障がい者団体による生活支援を行う施設にも訪問し、居宅における地域生活支援生活サポートの実態や斜面地における工夫についての調査をおこなう。また、斜面市街地の総合的住環境の要素として重視されるアクセス問題についての研究を次年度では重点的に行う予定で、課題の抽出と分析のために、アクセスを主として介護サービスを行っている事業者にも調査への協力依頼をしており、これらの交通費・人件費・物品費等に支出する予定である。 さらに、調査で得られたデータや資料を分析するにあたり、学会への参加や発表、他の研究者との情報共有とそのフィードバックは有効であり、次年度では積極的に実施していきたいと計画している。
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