研究課題/領域番号 |
20K04887
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田路 貴浩 京都大学, 工学研究科, 教授 (50287885)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ / ル・コルビュジエ / ラ・ショー=ド=フォン / 都市の構築 / 都市デザイン / パルティ / 郷土愛 |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度に引き続きCOVID-19の影響で、予定していたラ・ショー=ド=フォンでの現地調査を実施することができなかった。そのため、シャルル=エドゥアール・ジャンヌレの未定稿「都市の構築」の内容分析を前年度に引き続き集中的に行った。この草稿は都市デザインの主要要素、街区、道、広場などについて、その「パルティ」すなわち形態類型を論じることを目的としたものである。ジャンヌレは事例を交えながら多数の類型を提示し、その評価を論じている。しかしながら、その論述はかならずしも体系的ではなく、評価の基軸も一読した限りでは明瞭ではない。そこで、今年度は昨年までの「街区」「道」に続き、「広場」の記述を取り上げ、論じられたパルティを体系的に整理し、ジャンヌレによるその評価コメントを分類して評価軸にまとめた。さらに、それら評価軸の基礎となっている原則を 析出し、ジャンヌレの思想的な参照源を探った。 分析と考察の結果、広場のパルティについては単一の広場と複数の広場に大別でき、単一の広場については、さらに広場内の建物やモニュメントの有無で二分できることを示した。パルティの評価軸については、視覚的・身体的評価軸と実用的評価軸を導き出し、さらにそれぞれの細項目として、視覚的・身体的評価軸では視覚的閉鎖性、眺望の多様性、大きさの身体性、視認の正確性、実用的評価軸では交通問題、建築構造があることを明らかにした。 こうした考察を進めていくなかで、ジャンヌレが広場の空間に対して「ヴォリューム」という語をしばしば使用していることが留意点として浮かび上がってきた。ジャンヌレはこの語を、「身体性」「雰囲気」「場所の精神(ゲニウス・ロキ)」などと関連付けて論じているが、その思想的影響源としては、ジャンヌレが直接参照しているシュルツェ=ナウムブルク、アルベルト・ブリンクマンなどが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の影響により、残念ながら2020年から予定した3年間の研究期間中に現地調査を行うことはできなかった。しかしその代わりに、ジャンヌレの草稿「都市の構築」の分析に集中し、「道」「街区」「広場」の三つの主要な都市要素に関する記述について、パルティとその評価という観点からの分析と考察を行うことができた。「道」と「街区」に関する研究成果は『日本建築学会 計画系論文集』に投稿してすでに掲載されており、「広場」については今年度、同論文集に投稿し、現在査読中となっている。これにより、この時期におけるジャンヌレの都市デザインの原理と手法がおよそ解明され、草稿「都市の構築」の本論と呼べる部分の研究は一段落ついた。また、草稿の思想的背景については、文中に散在するキーワード、たとえば「ヴォリューム」「身体性」などに着目して、ジッテおよびその学派による著作からの直接間接的な影響関係が次第に明らかになりつつある。とくに「郷土愛」というキーワードについては、これがこの草稿の究極的な主題であることを指摘したうえで、シュルツェ=ナウムブルクなどのドイツの郷土保護運動との繋がりが明らかになってきている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、3年間の予定研究期間を1年延長した最終年度となるが、草稿「都市の構築」のテキスト分析は一応の完成に達したので、当初予定していたラ・ショー=ド=フォンでの資料収集と現地調査を行う。ラ・ショー=ド=フォン市都市計画局資料室では、各年代の現況図、都市計画図を収集する。とくに、1835年のシャルル=アンリ・ジュノによる都市計画図や、ジャンヌレが直接批判の対象とした当時の状況を示す1903年の市街地図などを入手したい。また、ジャンヌレが「都市の構築」のなかで提示した都市改良デザイン案のテキストとスケッチを現地にて現状と照合し、これによりテキストの分析だけでは把握できなかったジャンヌレの都市デザインの意図の理解を試みる。 また、ジャンヌレの思想背景調査として、ジッテの『広場の造形』で論じられたイタリアの広場についても現地調査を行い、ジッテからの影響関係を考察する。また、草稿の主題である「郷土愛」については、シュルツェ=ナウムブルクやアルベルト・ブリンクマンの著作の調査を進め、ジャンヌレの草稿との関係をより詳細に考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で予定していたラ・ショー=ド=フォンの現地調査が実施できなかったため、渡航費を使用しなかった。また、日本建築学会大会での発表を予定していたがオンラインでの発表となったため、参加旅費の支出がなかった。そのため、予定していた旅費、現地調査で入手した資料の整理補助謝金を中心に約250万円を繰り越している。 今年度は研究協力者を同行して現地調査を2回に渡って行い、200万円程度を支出する。残りは現在査読中の論文の掲載料10万円、文献資料購入費20万円、物品費および雑費20万円を予定している。
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