本研究は、建築家カルロ・スカルパの設計した建築作品を対象に、写真測量を用いた3Dモデリングによる空間構成の調査を行い、さらに全周パノラマ画像を用いてスカルパのデザインの根幹的手法である、フレーミングによって鑑賞者に視点を与える「絵画的手法」を明らかにするものである。「絵画的手法」とは、三次元の空間に絵画的なシーンを構築する、すなわち、ある視点と構図において空間を平面的なシーンとして還元するような操作と定義することができるが、スカルパはそのような絵画的手法を連続して用いることでシークエンシャルな多視点が連続していく空間をつくりだしているところに特徴がある。 本研究の多くの特徴は、スカルパの作品の大半は既存の建物の幾度もの改修ゆえに複雑な空間であり、そうした不定形の形状の連続する空間や繊細なディテールの実測や再現が従来の手作業による実測調査では難しかったものを、3Dレーザースキャナーによる高精度の点群データから3Dモデリングを作成し、より正確な空間把握を行うとともに、近年技術的な進化の著しい全周パノラマ画像を用いて空間の視覚情報を定量的に記述・分析するところにある。 最終年度にはイタリア・ヴェローナにあるカステルヴェッキオ美術館にて3D レーザースキャナーを用いて高精度の点群データを収集した。これら点群データにより、空間の三次元形状を把握し、よりリアルな空間把握が可能になった。特に、彫像も含めた空間要素を 3Dモデル化することにより、これまでのアイレベルからの視点に加えた、俯瞰的な視点を提供することが可能となった。本研究では、これまでの既往の定性的な指摘事項を参照としながら、より具体的な視覚的表現を以って、空間的特徴を指摘することができた。
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