研究課題
我が国の地方城下町には、江戸時代後期に生誕し、明治に活躍した大工棟梁が築いた歴史的建造物が数多く現存する。本研究は多くの名匠が台頭した地方城下町の明治時代に着目し、彼らの出自、事績と作品、作風やその生産体制、さらに弟子たちの活動という切り口で職人のモノグラフを集積するものである。既往の日本建築史研究では、全国区で活躍した職人が注目されがちである。それらと異なり、まさに地方で活動した職人が対象となる。しかしながら、既往の郷土史研究のような職人の評伝ないし記録集の域をこえるために、東北地方に限定しつつ、比較分析の視点を重視した。研究対象とする地域や職人を異にするように配慮し、比較分析と地方色の多様さの論述を両立するように留意した。本年度は、研究着手初年度から継続して史料調査および歴史的建造物実測調査を積み重ねてきた、弘前(青森県)、水沢(岩手県)、米里(岩手県)、登米(宮城県)に加えて、函館(北海道)や白河(福島県)といった地域も重視して研究に取り組んだ。その結果、函館の近代和風住宅に加賀地方の建築文化の影響がみられた点、さらに白河の明治時代の町家建築に越後地方の建築技術の関わりが見いだせるなど、明治時代の東北地方および北海道を含めた地域間交流の実例を深めることができた。こうした各地の地域間交流の建築文化史の叙述の試みは、身分制が撤廃され、また人物の地域移動が多様化する明治時代ならではの切り口として、本研究で重視する論点である。同時に、数寄屋大工の家に伝承された建築図面の史料形式や、江戸時代以来の堂宮大工家の意匠的継承など、近代和風建築をつくりだす背景としての大工家の技術伝承についても事例検討を行った。
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東北工業大学地域連携センター・研究支援センター紀要EOS
巻: Vol.35 No.1 ページ: 71-76
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