研究課題/領域番号 |
20K04893
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
藤木 竜也 千葉工業大学, 創造工学部, 准教授 (40551156)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 近代日本の政府高官官舎 / 地方所在の中央官庁高官官舎 / 陸軍師団長官舎 / 海軍鎮守府司令長官官舎 / 和洋館並列型住宅 / 洋館前方の配置形式 / 和洋館直結の接続形式 / 木造洋館 |
研究実績の概要 |
令和2年度は新型コロナウィルスの感染拡大の情勢を受けて、オンライン授業への切替に伴う対応や資料収集等の現地調査の実施が困難であったことから、自ずと研究課題にかけるエフォートを下げざるを得ない面が否めなかった。そうした制約の多い状況を踏まえて、地方所在の中央官庁高官官舎のうち陸軍師団ならびに海軍鎮守府・要港部の高官官舎(明治時代に現在の日本国内(内地)に創設された陸軍師団19ヶ所と海軍省鎮守府4ヶ所、同要港部2ヶ所)を対象とし、国立公文書館アジア歴史資料センターにてWeb公開されている防衛省防衛研究所所蔵の公文書の調査を行った。 陸軍師団・海軍鎮守府の創設初期は高官官舎を置く明確な規定はなかったと見られ、明治30年前後より新たに創設された陸軍師団と海軍鎮守府・要港部に高官官舎を置く動向が生じ、さらに明治後期から大正にかけて、それ以前の初期に設けられた陸軍師団・海軍鎮守府の高官官舎が新築されるようになる全体の系譜を明らかにでき、加えて陸軍師団長官舎7ヶ所、海軍鎮守府司令長官官舎3ヶ所・同要港部長官官舎1ヶ所で計11事例が現存していることを確認できた。 陸軍師団ならびに海軍鎮守府・要港部の高官官舎も、研究代表者が従前に研究に取り組んできた大臣等の政府高官官舎、知事など地方高官官舎(科研番号:16K18221)と同様に「和洋館並列型住宅」を多く採用しており、特に長官官舎は、表門から臨んで洋館を正面に構える配置構成を採る中央の政府高官官舎に通じる特性と、和洋館を共に木造で建ててこれらを直結する接続形式をもつことで地方高官官舎とも共通する特性を有しており、地方所在の中央官庁高官官舎らしく、政府・地方双方の高官官舎の特性を併せ持っていたことを明らかに出来た。この成果は「中枢軍事拠点(陸軍師団・海軍鎮守府)の高官官舎について」(日本建築学会関東支部研究発表会)と題して発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、地方に所在する中央官庁高官官舎を考究の対象とし、とりわけ「和洋館並列型住宅」の適用とその実態を捉えようとするもので、具体的な調査対象に大蔵省造幣局、陸軍師団、海軍鎮守府・要港部、司法省検事正・裁判長、国鉄(鉄道省)駅長、開拓使・北海道庁等の高官官舎を挙げてきた。 これまで長く近代日本の官舎建築を研究してきた研究代表者の経験より、このうち陸軍師団ないし海軍鎮守府・要港部の高官官舎が最も詳細に分析考察を行える対象と見込んでおり、初年度となる令和2年度にこれらから研究に着手したことは「研究実績の概要」にて上述した通りである。 新型コロナウィルスの感染拡大の影響もあり、現地での実地調査や資料調査に取り組むことは難しかったが、Webに公開されている防衛省防衛研究所所蔵の公文書の調査だけでも想定を上回る研究成果が得られてきた。従って「おおむね順調に推移している」と判断し、現在までの研究の進捗状況を報告するものである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の研究計画では、①文化財等の現存事例、②近代化遺産・近代和風建築の総合調査もしくは個別事例の調査報告書・論文、③国立公文書館・防衛省防衛研究所・都道府県立の文書館所蔵の公文書・建築資料、④国会図書館・建築学会図書館・都道府県立図書館所蔵の資料・文献より地方に所在する中央官庁高官官舎の「和洋館並列型住宅」の事例を収集して分析考察を行うとしてきた。現状では、このうち防衛省防衛研究所の資料調査を終えたに留まっており、引き続き上記に挙げた各項目の調査を継続する。 とりわけ令和2年度に行った調査・研究の過程で、陸軍師団高官官舎で地方新聞に詳細が報じられている事例が認められたことから、都道府県立図書館での地方新聞の資料調査も視野に入れて取り組むものとしたい。しかし、依然として新型コロナウィルスの感染拡大は厳しい情勢にあるため、その情勢を鑑みつつ、また感染対策を徹底して可能な限りで現地での資料調査、さらには現存遺構の調査に取り組み、適宜学会等での研究発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の研究経費は、主として現地での資料調査・実地調査に使用するデジタルカメラとSDカード(物品費16万5千円のうち13万5千円)、そして旅費(18万6千円)を計上し、その助成を受けていたが、新型コロナウィルス感染拡大の影響により現地調査を行うことが困難となった。加えてWebに公開されているものを対象に資料調査を実施したことで、デジタルデータにて取り扱うことをもって研究が進捗したこともあり、同様に計上していたプリンタートナーの購入や文献資料等の複写代が必要とならず、結果的に研究助成金の使用が生じない形となった。 新型コロナウィルスの感染拡大の情勢を鑑みつつであるが、令和3年度は前年度に実施が困難であった現地での資料調査・実地調査に精力的に取り組むものとしたい。特に令和2年度の調査研究により研究の遂行にあたって新たにその必要性を認識した都道府県立図書館での地方新聞の調査では、通常の資料調査よりも調査にかかる作業量や作業時間が増えるため当初予定していたより長い調査時間(滞在時間)を見込む必要があることから、これにより計上してある令和2年度分の物品費や旅費を使用する計画とする。
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