令和3年度に行った現地調査を基に「旧金沢地方裁判所検事正官舎について」(日本建築学会大会学術講演会)の発表を行った。過去2年度の遅れを取り戻すため、現地調査に精力的に取り組んだ。現存事例の多い陸軍師団、海軍鎮守府・要港部を主な対象とし、舞鶴(舞鶴鎮守府)、むつ(大湊要港部)、久留米(第18師団)、熊本(第6師団)、札幌(北部軍司令部)で現地調査を行い、補遺として取り組む方針に加えた地方高官官舎(知事など各府県の高官官舎)の追加調査として、宮城、愛知、岐阜、滋賀の図書館・文書館で資料調査を実施した。 3年度に亘る資料収集を基に36件見出せた地方所在の中央官庁高官官舎の「和洋館並列型住宅」の分析・考察を行い、和洋館を同時に計画・建設するほか、接続形式は渡廊下と直結、配置構成は洋館の前方配置と和洋館の並列配置にそれぞれ2分類できることを明らかにした。これらを先行研究(16K18221)の成果と合わせて近代日本の高官官舎における普遍的性格と結論づけた。 地方所在の中央官庁高官官舎が政府高官官舎(東京所在の各省大臣等の高官官舎)と共通したのは、表玄関を洋館のみとすることに限られたが、規模ないし面積比が和館の方が大きく、接続形式は和洋館直結を重用し、居住機能を和館に備えることに地方高官官舎との共通性が多く認められ、双方の性格を併せもちつつも中央(東京)の原理よりこれを受容した地方の性格に優位性があったことも明らかした。その「和洋館並列型住宅」の形態には、親任官の高官官舎に政府高官官舎の「和洋館並列型住宅」にうかがわれてきた書院造(近世上流武家の住宅形式)、勅任官・奏任官の高官官舎に地方高官官舎の「和洋館並列型住宅」で多用された中級武家住宅の構成が底流しており、その差異に洋館の面積比の大小が決定的な影響を及ぼすものであったことも指摘した。 以上の研究成果を報告書にまとめて本研究課題を総括した。
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