本研究の目的は、関東・東北地方における大工棟梁の実体を解明し、建築生産活動の背景となる地域的な特性を踏まえ、新たな大工棟梁という歴史像の構築を目指すことにある。そのための方法として、棟札等に記載されている大工棟梁の事例を収集すべく主に文献資料を用いて悉皆調査を実施し、網羅的に把握した上で適当な事例を選定し、適宜に考察・分析を加える。特に、研究期間内では福島県を範囲として、史料で確認できる大工棟梁の情報を収集し、数千件のリストを作成することができた。多くは単に職名や氏名などが判明するだけで、それ以上の事柄を解明するには至らないが、中には考察・分析に耐え得る場合もあった。 また、研究を進めていく中で、新出の木割書を入手することができた。「とりいのみょうもく」は記述内容から中世の内容を多く含む木割書である可能性が高く、あまり明らかになっていない同時代の木割を検討する上で有効な史料であることを確認した。特に、中世から近世へと移行する過渡期に位置付けられ、抽象から具象へ或いは実寸から比例へという過程を辿ることが可能であった。 最終的には、福島県内を対象に中世の大工について論じ、「大工・番匠」から「大工棟梁」に至る過程を追うことができた。例えば、他所から当所へ「大工」が移動することで技術がもたらされていたこと、その技術が土地の「大工」に定着したこと、更には組織の底辺にいたであろう「番匠」の実力が向上し、「大工」に接近していたことなどが明らかとなった。 このような「大工」と「番匠」の変遷から、当時当地において実現されていたであろう生産力を念頭に、黎明期(凡そ13から14世紀)・萌芽期(凡そ15世紀)・全盛期(凡そ16世紀)に区切って各時代の内容と特徴を把握した。
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