本研究では、豊臣政権による寺社造営に注目し、基本的な事実関係を明らかにするとともに、その特質を解明することを目的とした。さらに、それを通して、中近世移行期における寺社建築の変容(=近世化)に関する理論の構築を目指した。 最終年度は、つぎのふたつの課題について研究を進めた。第1が、前年度から引き続き、秀吉政権による寺社造営の事実関係を、現存遺構、文献史料、金石文などさまざまな史料から収集し、データベースとして整理したことである。これにより、秀吉政権の寺社造営の特質を造営体制、建築技術、材木調達などの側面から、多面的に把握することができた。第2が、中近世移行期における寺社建築の変容に関する理論構築を行ったことである。とりわけ、近世の寺院建築の平面形式や意匠、造営体制が、中世と比べてどのように変化したのかを検討するとともに、中近世移行期における構造形式や架構技術の変化について整理を進めた。それにより、中近世移行期において寺社建築がどのように近世化したのかを部分的に明らかにすることができた。 また、本研究課題の研究期間全体通じて実施した研究成果としては以下の点が挙げられる。①豊臣政権、とりわけ豊臣秀吉が行った寺社造営に関する事実関係を整理し、その全容を把握したこと、②豊臣秀吉による大仏殿造営の特質を、そこで用いられた工法、造営組織の編成、材木調達といった側面から明らかにしたこと、③中近世移行期に造営された寺院建築について、平面形式、構造形式、意匠の特質を明らかにし、寺社建築の近世化について理論構築を進めたことである。
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