研究課題/領域番号 |
20K04908
|
研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
崎山 俊雄 東北学院大学, 工学部, 准教授 (50381330)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 人材移動 / 建築技術 / 土木技術 / 道府県庁 / 技術伝播 / 技術経歴 / 工学教育 / 建設技術者 |
研究実績の概要 |
本研究は、大正期ないし昭和戦後復興期を対象として、各地に遺る歴史的公文書等の収集と分析、および遺構調査等を主として、道府県庁の建設技術者、ひいては地方における近現代の建築や都市が如何なる枠組みの下で造られたのかを解明することを目的としている。令和3年度は、新型コロナウイルスの感染状況に配慮しつつ、文献調査とデータ整理を中心に進めた。今年度の重点課題と結果の概要は以下の通りである。 <重点課題> 当該期に在勤した道府県庁の技術者と周辺人物の把握:国立国会図書館、国立公文書館、宮城県および近県の県立図書館や公文書館等に所蔵される史資料(主に各年版の職員録、工業・工学系学校等の卒業生名簿)を精査し、道府県庁に在籍した技術者の氏名・在職期間・専門分野・経歴に関する情報のデータベース化を進める。 <結果概要> 前年度からの継続となる宮城県と岩手県の人材データベースを、昭和20年代まで作成した。また、東北地方の各県を中心に、大正前半期分の在職技術者データベースを作成した。これらの分析からは、設置学校と人材供給の枠組みについて、以下の仮説的展望を得た。①明治後半期以降、県立工業学校の卒業者が県土整備の中心的な役割を担う傾向を、複数の県で確認した。②土木分野と建築分野とで、人材の動きには一定の違いが見られることが示唆される。③高等工業学校の卒業生も県庁に採用されている。④ただし高等工業の卒業者は、工業学校卒業者に比べ、短期間で県庁を辞す割合が高い。⑤高等工業学校卒業生には、植民地を含むより大きな人材の動きがあったことが示唆される。以上より、総じて技術系人材の国内外移動を見る上で、教育機関の整備状況と、各人の出身地-勤務地の関係、並びに勤続年数が重要な観点になることが示唆される。これらの解明が、同時代の土木・建築系の人材供給の実態ないし人材市場の様子を解明することにつながるものと考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①研究資料の調査過程において、当初の予想を上回る情報を発見することができた。特に建築と土木を包含した総合的視点から地方の戦前戦後を検討することができる史料を多数得た点は、本研究課題のみならず、代表者の今後の研究展開に資する成果であったと捉えられる。 ②継続的に取り組んできた宮城県と岩手県に関し、県庁の土木・建築系技術者の集団的動向を通覧できるデータベースがほぼ完成した。この点は、令和3年度の特筆される成果であった。教育機関の整備や学校種別、学歴との関係性も含めて、人材移動を歴史的に論じる視座を獲得することが出来たからである。また、研究を効率的に進める上で如何なる性質の史料が有効かを把握できた点も重要な成果であった。今後の調査・分析を円滑に進めるための土台が完成したと見ている。 ③宮城県と岩手県を除く東北4県(青森県・秋田県・福島県・山形県)に関して技術系人材のデータベース作成に取り組み、大正期を中心に、今後の展望が開ける段階まで成果を蓄積することが出来た。本格的なデータの収集と蓄積は令和4年度以降の課題となるが、全国を俯瞰的に分析することを最終的な目標に掲げる本課題研究において、今後に向けての見通しを一定に得ることが出来た点は重要な前進と評価できる。 ④次年度の調査対象と調査範囲のリストアップ、および分析対象と分析内容の整理が概ね完了している。上に述べたように、研究当初の想定に比べて多くの史料が発見されているため、調査・分析の幅(地理的広がり)と深さ(どこまでの資料を収集するか)を都度調整しながら進めていく必要性を感じているが、当初から地域的均衡と資料現存量を考慮して重点道府県を仮説的に設定しており、想定の範囲内と見込んでいる。唯一の懸念は、特に遠方への移動が社会的状況に左右される点である。この点はこれまでと同様に、所属機関の活動指針に則った上で、柔軟に検討したい。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえ、一方コロナ禍に対する出口戦略も加味して、次年度は①特に歴史的公文書を効率的に閲覧できる岩手県・宮城県・秋田県・福島県で建設事業の記録を収集する(歴史的行政文書の閲覧と収集)、②技術系人材に関する基礎的な情報の収集対象を関東および西日本に拡げ、人材情報(氏名・在職期間・前後歴など)を収集する、③関東および西日本地域へも可能な限り出向き、当該期の建設事業に関する史料(公文書、写真、絵図面、遺構等、なお一部は既にリストアップ済みである)を収集する、④これまでに収集したデータを主とする基礎的事実の整理(独自のデータベースの拡大)と分析、に重点を置いて研究を展開することを計画している。なお、社会的状況は大都市圏が不利である可能性が高いため、仮に東北域外の調査が(所属機関の方針として)可能と判断できる状況になれば、経路も考慮しつつ群馬県、長野県、神奈川県、京都府、三重県、山口県、長崎県、を候補地としてリストアップしている。 一方、基礎的なデータの収集が概ね順調に進捗している状況を踏まえて、令和4年度からは、これまでに収集した情報の整理、史料の読解、および分析にも一層注力する。特に分析に際しては、時間軸(時代の違いによる人材移動傾向や経歴傾向の違い、および既収集の建築仕様書や図面の読解に基づく計画技術・構造技術の違い)と、地域軸(同年代における地域ごとの人材移動傾向や経歴傾向の違い、および同年代・同一建築類型(庁舎・官舎・学校等を想定)に見られる地域ごとの違い)を中心に、地理的バランスにも配慮して比較を行うことを想定している。なお、その過程においては、⑤調査研究の成果を日本建築学会大会(口頭発表)、近代仙台研究会(同)、日本建築学会各支部研究報告集(査読なし論文)等で公表し、その歴史観について、研究者コミュニティに問うことも予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
<次年度使用額が発生した理由> 長引くコロナ禍にあって、所属機関における活動指針を前提として、調査範囲を居住地である宮城県のほか、隣接する岩手県に絞り、かつ、宿泊を伴わない調査に限定して実施した。また、データ整理のために見込んでいたアルバイトの雇用を、採用予定者のリスクに照らして次年度に先送りした。幸い、本研究課題の目的達成に必要な資料が上記2県に残ることは以前から把握できていたため、前向きな意味で対象の絞り込みと言えるものであった。加えて、実際に現地調査で当初の想定を上回る質および量の史料を発見するに至った。結果的に次年度使用額は発生したが、研究の進捗は概ね予定通りと自己評価できるものであった。また、現地に出向いての調査時間を削減したことにより、デジタル・アーカイブの閲覧とデータ整理にその分の時間を配分することが出来た。 <使用計画> 過年で未完了の調査、および他県での調査を拡大して実施することを計画しており、過去2カ年で未支出の分は、令和4年度の旅費に組み込んで使用する。また、調査機材等の一部に不具合が生じつつあるため、これらについては適宜更新することも予定している。一方、史料の収集は想定以上の量に及び、かつ前年度において整理の雛形は出来上がっているため、データ整理のためのアルバイトを雇用する。データを整理・保管するための消耗品、関連書籍等についても一定の支出が想定される。
|