研究課題/領域番号 |
20K04911
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
松下 希和 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (70748459)
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研究分担者 |
田中 厚子 芝浦工業大学, 建築学部, 教授 (60438819) [辞退]
赤澤 真理 大妻女子大学, 家政学部, 講師 (60509032)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 女性 / 住宅 / 婦人雑誌 / 施主 / 女性デザイナー |
研究実績の概要 |
本研究は住宅が近代化する過程にあった戦間期に着目し、家族本位にとどまらない近代的なライフスタイルを実践した女性たちが、住まい手としてまたは作り手として様々な制約の中で、直接的または間接的に近代住宅の推進にどのような役割を果たし、それらは戦後の住宅にどのような影響を与えたかを明らかにすることを目的としている。 研究の二年目の当初は、女性が設計に関与した住宅を扱う予定で、土浦信子、上野リチなどの調査を進めたが、同時に初年度の調査から住宅の近代化に対して当時の女性に影響力の大きかった婦人雑誌の役割を深く掘り下げる作業も行った。具体的には、4大婦人誌(『婦人公論』『婦人画報』『主婦之友』『婦人倶楽部』)に『婦人之友』を加えた5誌において、1912年から1931年の間に、当時建築界の重鎮であった、伊東忠太、塚本靖、佐野利器、佐藤功一、大熊喜邦の5名の住宅改良に関する寄稿を収集し、その内容を分析した。この研究により、記事の基本的な目的は、国家の政策に則る住宅改良の啓蒙にあったが、これらの建築家たちが大正初期から積極的に当時先進的な住宅の考え方を一般の女性に広める活動を行ったことで、1920年代半ばから1930年頃に、次世代の建築家が婦人雑誌を活用する背景がつくられたことが明らかになった。この内容は2021年度の日本建築学会大会で発表した。 上記の研究を下地として、改めて女性が施主となった川上貞奴邸(あめりか屋、1920年)、三宅やす子邸 (石本喜久治、担当:山口文象、1928 年) 、宇野千代・東郷青児邸(石本喜久治、1931年)吉屋信子邸 (吉田五十八、1936 年)、水之江瀧子邸 (網戸武夫、1937年)、 林芙美子邸 (山口文象、1941年)を分析し、その革新性と特に婦人誌を媒体とする受容について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共同研究者とほぼ毎月1回の打ち合わせを行い、戦間期に女性が設計に関与した住宅(内装や家具のデザインを含む)についての資料の収集を行った。具体的には、土浦信子[「新時代の中小住宅設計競技案」(1929)谷井邸(1930)大脇邸(1930)土浦自邸:第一および第二(1932年、1935年), 野々宮アパート(1937)など]、上野リチ[スターバー(1930)、スター食堂(1930)、群馬県工芸所で製作した生活用品など]、山脇道子[バウハウス手織物個展(1933)など]について調査を行った。上野リチについては、詳細な情報を京都国立近代美術館で開催された「上野リチ展」と学芸員の方へのヒアリングによって得ることができた。一方、ノエミ・レーモンドについては緊急事態宣言などのため現地調査を予定通り行うことができなかった。今年度は可能な限り進めていきたい。 また、これまでの研究によって、戦間期において女性がデザイナーとして近代住宅に関与できたのは、インテリアやテキスタイルなどに限られていたことが明らかになったが、一方で、住生活の近代化を良妻賢母的な国の方針とは違った方向から啓蒙した女性たちの活動も重要であることから、研究範囲を広げる。対象となるのは、出版活動や教育活動を通して影響力のあった羽仁もと子、バウハウスで学んだテキスタイルデザイナーの山脇道子、服飾デザイナーで教育者の桑沢洋子などで、資料の収集を始めている。桑沢の場合は、生活全般への関心が教育という形で表れるのは主に戦後になるが、その背景として、戦間期の活動も調査している。
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今後の研究の推進方策 |
三年目は引き続き戦間期に女性が設計に関与した住宅(内装や家具のデザインを含む)の資料収集を行うとともに、住宅の近代化を啓蒙・指導した女性として、羽仁もと子、山脇道子、桑沢洋子にシャルロット・ペリアンと濱口美穂を加えて戦間期から戦後へ繋がる活動を調査する。 また、一、二年目の研究から、婦人雑誌における建築家の言説の重要性が明らかになったので、その変遷を確認するため、引き続き4大婦人誌に『婦人の友』を加えた5誌を再度調査するとともに、『スタイル』にも着目する。日本版ヴォーグを目指して創刊された『スタイル』は、編集者の宇野千代の個性を反映し、明らかに良妻賢母的な近代化とは異なるライフスタイルを標榜していた。そこに関わっていた、作家・芸術家・建築家の関わりについても掘り下げて調査を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
緊急事態宣言のため、予定していた現地調査や、遠方の資料調査がほとんど行えず、旅費が使えなかったため。今年度、状況が改善した場合は昨年度行えなかった調査を行う予定である。
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