研究課題/領域番号 |
20K04927
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川本 広行 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (50318763)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙探査 / 月面探査 / 静電搬送 / 振動搬送 / サンプリング / レゴリス / 個別要素法 / 月面ローバー |
研究実績の概要 |
宇宙探査は人類の普遍的な夢であり、各国でさまざまなプロジェクトが進められている。わが国でも、小惑星探査機Hayabusa-1に続くHayabusa-2の成功が、科学的な成果だけでなく、われわれに夢と感動をあたえてくれたことは記憶に新しい。米国を中心にわが国の参画も計画されている月面基地建設を目標とするアルテミス計画も始動している。 宇宙探査は科学研究にとどまらず、実利でも注目されている。とくに近年、月には水(氷)の存在が確認されたことから、資源探査や将来の宇宙探査活動を行ううえでの前進基地としての利用が期待されている。これらを実現するためには、まず「どの場所に、どのような形態で、どの程度の量の」水が存在するのかを月面で直接探査する必要がある。本研究では、この探査活動に不可欠な水の採取に注目し、月面探査で先行している米国や中国に対して、ほかに例のない独自の技術を確立することを目的とする。提案する採取方法は、各国の宇宙機関で計画されているロボットアームなどによる機械式の採取方法に対して、信頼性、重量、必要電力などの点で格段に優れていると思われる静電式と振動式であり、本年度はコロナ禍により活動が制約されたが、その基礎的な性能を確認した。 まず、静電式の採取方式に関しては、パイプにリング状の電極を巻き付け、これに進行波電界を印加することによって、氷粒子を上方に搬送するものであり、電極形状や進行波などの条件を適正化することによって、1-m程度まで、粒子を搬送することができることを実証した。また、振動式は、中空パイプを上下振動することによって粒子を上方に搬送するというユニークなものであり、この方式についても、条件の適正化によって1-m程度まで、粒子を搬送することができることを実証した。研究成果は英文誌に投稿し、一部受理された。また、適宜JAXAと交流して研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はコロナ禍により活動が制約されたが、在宅で実施できるシミュレーションや論文執筆を中心に、以下の研究を実施した。 まず、静電式の採取方式に関しては、パイプにリング状の電極を巻き付け、これに進行波電界を印加することによって、氷粒子を上方に搬送するものであり、電極形状や進行波などの条件を適正化することによって、1-m程度まで、レゴリス粒子や氷粒子を搬送することができることを実験により実証した。低重力・真空の月面での性能は、個別要素補によってシミュレーションし、地上よりも高性能が期待できることを示した。研究成果は、国内学会で発表したほか、英文誌に投稿し、受理された。 また、振動式の採取方式は、中空パイプを上下振動することによって粒子を上方に搬送するというユニークなものであり、この方式についても、条件の適正化によって1-m程度まで、粒子を搬送することができることを実験により実証した。低重力・真空の月面での性能は、ドイツDLRの研究者とコレボレーションし、その有効性を示した。この研究につぃても、国内学会で発表したほか、英文誌に投稿した。 また、これらに関連する活動として、(1) JAXAの「宇宙探査イノベーションハブアドバイザリーボード」の専門委員として活動した。(2) 米国の科学技術雑誌ScienceNewsのインタビューを受け、その記事が掲載された。(3) 共同執筆の"Advances in Extraterrestrial Drilling: Ground, Ice, and Underwater" (川本執筆7.6.2 Electrostatic and Magnetic Regolith Transport and Capture)が、CRC Pressより発行された。(4)「月面ローバーのレゴリス除去技術に関する質疑対応」の某社からの委託業務を行った。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も、当初はコロナ禍により活動が制約されると思われるが、在宅で実施可能なシミュレーションや論文執筆、ウエブでの研究発表、関連先との連携などを中心に研究を進め、後半期コロナ禍がある程度終息すれば、初年度の研究で十分でなかった実験研究を進める。研究対象である搬送装置そのものだけでなく、駆動電源の合理化なども主要な研究課題である。初年度に、早稲田大学理工総合研究所内に新しい実験室を開設しており、これを活用する予定である。適宜JAXAと交流して研究を進める。また、新たに、京都大学とのコレボレーションを計画している。 また、本研究に関連する活動として、(1) JAXAの専門委員としての活動 (2) 某宇宙企業のアドバイザーとしての活動 (3) 本研究の派生技術である太陽電池パネルの静電クリーニングに関する中東カタールとのコレボレーションを継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はコロナ禍により活動が制約された。このため、シミュレーション研究や論文執筆等、在宅で可能な研究に注力し、学会発表旅費や実験機材などの費消が限定的であった。次年度後半はコロナ禍の終息が期待されるため、実験研究に注力する計画である。
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