近年、大規模な有人月探査計画が各国で進められている。米国では、月面基地建設を目標とするアルテミス計画が始動しており、わが国もこの計画に参画することが決まっている。また、中国も独自の大規模な月探査を計画している。月面には各種の金属だけでなく、大量の水(氷)の存在が確認されており、とくに水は、宇宙飛行士の生命維持だけでなく、電気分解して酸素と水素を抽出すれば、燃料電池やロケットの燃料と酸化剤としても利用可能である。しかしながら、現状では、どの場所に、どのような形態で、どの程度の量の水が存在するのかは不明であり、まず、これを月面で直接探査する必要がある。このため各国では、無人ローバーを月面に送り、これに取り付けたスクリューを月面下に挿入して、ロボットハンドのような機械的な方式によって取り出したレゴリスを分析することを計画している。これに対して本研究は、ほかに例のない独自の採取技術を確立することを目的とする。提案する採取方法は、ロボットアームに比べて信頼性、重量、必要電力などの点で格段に優れていると思われる静電式と振動式である。 コロナ禍での制約はあったが、静電式に関しては、パイプにリング状の電極を巻き付け、これに進行波電界を印加することによって、氷粒子を上方に搬送するものであり、電極形状や進行波などの条件を適正化することによって、1 m程度まで、レゴリスや氷粒子を搬送することができることを実証した。また、振動式は、中空パイプを上下振動することによって粒子を上方に搬送するというユニークなものであり、この方式についても、条件の適正化によって1 m程度まで、粒子を搬送することができることを実証した。研究成果は英文誌11通、英文著書(共著)2冊等に報告した。また適宜、海外研究機関・JAXAや京都大学と交流して研究を進めた。
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