研究課題/領域番号 |
20K04928
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研究機関 | 東京都立産業技術高等専門学校 |
研究代表者 |
中野 正勝 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 教授 (90315169)
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研究分担者 |
各務 聡 東京都立大学, システムデザイン研究科, 准教授 (80415653)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イオンエンジン / 二酸化炭素 / 有人宇宙構造物 / 省資源軌道運用 |
研究実績の概要 |
イオン源,システム,性能評価・最適化の項目に分けて研究を行った.小型マイクロ波放電式イオン源の製作を行い,二酸化炭素を推進剤としたプラズマ着火とイオンビームの引き出しに成功した.また,簡易的な性能評価のためにターゲット振り子式の推力測定装置を製作した.これらの実験装置により,イオン生成コスト,推進剤利用効率,推力の取得が可能となった.実験では二酸化炭素を推進剤とした場合とアルゴンや水を推進剤として用いた場合の比較をした.二酸化炭素を用いた場合の推進剤利用効率はアルゴンよりも一桁低く,水と同程度であった.これは二酸化炭素が分子性の推進剤であるためであり,解離等でエネルギ損失があることによる.そこでプラズマ化に至る過程を明らかとするためにグローバルモデルを作成した.このモデルを用いることで,引き出しイオンの平均分子量など推進性能の把握が容易になる.実験との比較により,このモデルの適用範囲についても調査を行った.逆電位アナライザによるイオン源内部のプラズマ電位計測にも着手することで,イオン源内部の診断手段ノウハウを新たに構築した.また,システムとして必要な諸元の具体化も行った.人間1人当たりの呼気に含まれる二酸化炭素を推進剤とする場合,10 kW級で比推力2000 s程度のイオンエンジンが成立すれば国際宇宙ステーションクラスの宇宙構造物の高度補償が可能である.なお,研究分担者のもとで,より高精度な微小推力を測定するための推力測定装置を設計した.推力がサブmNクラスで推力重量比が極めて小さいため,特別な弾性ヒンジを利用した水平振子型の推力測定装置が必要となる.変位も微小で高精度な変位計が必要となるが,高精度型はデジタルインタフェースでリードアウトする必要がある.そのため,校正装置を製作して,推力測定装置を設計し,変位センサインタフェースとソフトウエアの実装を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に目指していた,イオン源の構築,システム分析,性能評価・最適化のいずれの項目についても計画通りの進捗具合である.なお,推進剤として使用する二酸化炭素が分子性ガスであることから,プラズマ生成や引き出しに関する現象が複雑と予測されたため,実験を主体とした方針でいたが,いくつかの先行研究を参考にすることで,実験結果をよく再現できるグローバルモデルを作成することができた.これにより,実験と解析の両面から研究を進めることができているのが進捗として大きいところである.一方で,イオン源の性能が低いことに関しては,想定の範囲内であり,次年度以降に性能向上を目指していく.研究分担者担当の推力測定装置の製作も予定通り順調に進んでおり,精度の高い性能取得の目途が立っている.また,システム的な解析から,有人宇宙構造物の高度補償を行うために必要なイオンエンジンの作動レンジも明らかにすることができている.したがって,進捗状況としては,概ね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
システム評価によりイオンエンジンとして必要な比推力レベルが判明したことから,スクリーン電圧等の要求諸元を具体化することでイオンビーム引き出し系の設計を行なう.イオンビーム引き出しについては,数値解析ツールを用いてパラメトリックな検討を行っていく.特に,推進剤利用効率が低いことから,推進剤の閉じ込め効率の高い電極系を設計する.同時に,イオン源内部についても最適化を実施し,磁場形状やアンテナ位置などを変えることで性能を向上させていく.推力性能の取得は,研究分担者が製作した推力測定装置を用いて高精度に行っていく.併せて,耐久性能に把握に必要な長時間作動に向けてのデータを取得していく.推力/電力比の観点からは分子量の高い状態でのイオンの引き出しが望ましいが,イオンビーム電流を増やして推力を高くするには電力投入量を増やしてイオン生成量を増やす必要がありイオンの平均分子量を下げることとなる.すなわち最適な作動点が存在することから,実験および解析からイオンスラスタの性能を取得し,最適な作動点を求めることで,システムとして得られる最大性能を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の広がりによって,対面での打ち合わせ自粛要請や学会のオンライン開催によって,旅費を使用する機会が無くなったため,旅費として使用を想定していた予算を次年度に繰り越した.引き続いて,成果発表等の旅費として使用を想定しているが,新型コロナウィルス感染症の状況が改善しない場合には,イオン源や推力測定装置の改良や推進剤等の追加消耗品の購入に充てて,有効活用していくことを計画している.
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