研究課題/領域番号 |
20K04939
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
段 智久 神戸大学, 海事科学研究科, 教授 (80314516)
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研究分担者 |
赤松 浩 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (10370008)
大嶋 元啓 富山県立大学, 工学部, 講師 (40511803)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 低温プラズマ / 放電特性 / プラズマ支援燃焼 / エンジン排ガス / 温暖化効果ガス削減 / ナノパルス放電 |
研究実績の概要 |
放電装置を燃焼室に導入する方法として,電極をシリンダ内に横断するように配置し,高電圧導入はガソリンエンジンに使われるスパークプラグを流用する構造を基本とした。今年度はつぎの三つの電極を試行した。ひとつは,丸棒にワイヤーを巻き付け,有刺鉄線のようなものを穴の空いたパイプで覆い,ワイヤーの先端からパイプの内側の側面に放電させるもの(電極Aと呼称)。ひとつは,丸棒に巻いたワイヤーから直接放電(シリンダーヘッド部)させるもの(電極Bと呼称)。ひとつは,ねじ棒にエンザートを取り付け円環で覆ったもの(電極Cと呼称)である。 既得のディーゼルエンジンを,吸気管内に天然ガスを噴射してシリンダー内に吸い込み,軽油の噴射によって着火させるDual Fuelエンジン(DFエンジンと呼称)に改造した。基礎的な燃焼試験から,電極挿入のための圧縮比低下によってエンジン性能は悪化するものの,DFエンジンとしての運転が可能であることを確認した。 電極Aにおける筒内圧と電流電圧値の関係と排ガス分析の結果はつぎのとおりであった。電流値が2.0 mA以上になるとスパーク放電が頻繁に発生し,電流電圧値が不安定になる。未燃性成分(CO, HC)では0~1.0mAの範囲では電流値を上げていくと排出量を減少することができたが,2.0mA以上となると増減の明確な傾向が見受けられなかった。電極Bに関して,同様の解析の結果はつぎのとおりであった。0.1mA~0.8mAまで電流値を安定してコロナ放電を維持することができた。未燃性成分(HC,CO)は電流値を上げていくと減少傾向にあることが確認された。NOx、CO2の値は0.0~0.2mAの間では減少傾向にあり、0.2~0.8mAでは増加傾向にあることが確認された。これらより,電極間距離を確保することでコロナ放電を安定的に維持することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
誘導性エネルギー蓄積方式ナノ秒パルス電源を試作し,同軸円柱・円筒電極系でのパルス放電試験を実施した。円柱の外径は3mm,円筒の内径は10mmとした。これにナノ秒パルス電圧を印加したところ,印加電圧12kVのときに電極間でパルス放電が発生し,そのときのパルス電流の最高値が30Aになることがわかった(パルス放電に投入したエネルギーは6mJ)。続いて,燃焼装置で実際に使用されている同軸円柱・円筒電極系に対して,ナノ秒パルス放電試験を行った。その結果,印加電圧8kV以上で電極間にパルス放電が発生することが分かった。このときのパルス電流は15Aであった.なお,円筒電極の多孔加工のため,そのエッジ部の電界が局所的に高くなったため,放電の様相がフィラメント状のスパーク放電となった。また,放電によるノイズが検出されたため,電源の信号回路のノイズ対策が必要であることが分かった。 さらに,主にプラズマ支援燃焼に関する研究動向を把握するために文献調査を行った。繰り返しナノパルス放電プラズマ(低温プラズマ)使用によるエンジン性能とプラズマ生成に関して,低温プラズマ単体に対してはエンジン運転条件における点火特性の可視化,生成されるラジカル類の評価がされ,着火に至る考察がなされている。しかし,プラズマの生成形態により形成される電子状態が異なることから点火特性,生成ラジカルは異なり,さまざまな点火形態が報告されている。これはエンジン性能にも影響を及ぼし,生成条件の最適化により安定的な燃焼と排気ガスの清浄化が達成されたとの報告もある。一方,排出ガスにプラズマを照射し,排気ガスを清浄化する試みも行われており,プラズマ照射による模擬排出ガスの低減に効果がある報告がある。 これらにより,燃焼場におけるナノ秒パルス放電を試行する準備を整えているところであり,当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
完成したDFエンジンのプロトタイプで,CNGの未燃燃料排出量が減少するかを試す。電極は今年度までにためした3種類、DFエンジンの設備・運転条件は今年度と同一でまずは試行して,解析は①熱発生の時間積算履歴をもとめて着火遅れや初期燃焼率,燃焼の重心などを評価する,②プロンプトNOxと排ガスNOx中のNO2/NOの相関を文献調査とともに明らかにしていく。また,定容容器内でのプラズマによる各種ガスの反応をみる。解析は,①既得の直流電源にくわえ、交流電源でのプラズマによる影響を確かめる,②N2Oガスにプラズマ放電の効果があるかを確かめる。 誘導性エネルギー蓄積方式ナノ秒パルス電源のノイズ対策を施し,連続運転が行えるように改善する。この電源を神戸大学の燃焼装置に接続し,ナノ秒パルス放電によるプラズマ支援燃焼効果を調べる。燃焼装置の吸気部にてあらかじめ酸素系活性種(オゾン等)を生成することで,燃焼の促進が期待できる。それには,パイプ内に誘電体バリア放電式プラズマ源を配置することが有効であると考えられる.そこで,誘電体バリア放電の一種である表面バリア放電電極をパイプ内に導入し,小型の交流高電圧電源を試作する。酸素系活性種による燃焼支援効果を明らかにするため,表面バリア放電の有無に対して燃焼実験を実施する。さらに,定容容器を用いて,燃焼室の雰囲気における低温DBDプラズマスペクトルを測定する。窒素の第二正帯の発光スペクトルから電子温度を推算し,低温プラズマの熱的非平衡性を評価する。また,その他の発光スペクトルからラジカル類が着火に及ぼす影響を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナノ秒パルス電源のスイッチ部に高速半導体スイッチを用いるが,世界的な半導体部品不足による納期遅延のため入手できなかった.また,成果発表として計画していた旅費を使用することがなかったためその分が残った. ナノ秒パルス放電にともなう電磁ノイズが電源を誤作動させることが明らかになったため,繰り越した予算でノイズ対策を実施する.また,成果発表のための旅費として使用する. 文献探索でプラズマ観察に関する知見を得たため,繰越した予算で雰囲気におけるプラズマ観察を実施する.
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備考 |
低温プラズマを、通常大気圧程度で行うものを高圧力(2MPa)場で成功。また、エンジン燃焼で、燃焼室内における低温プラズマの生成により、排出されるガス成分の濃度を変化させることができた。
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