研究課題/領域番号 |
20K04944
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研究機関 | 大島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
中村 翼 大島商船高等専門学校, 電子機械工学科, 准教授 (10390501)
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研究分担者 |
上野 崇寿 大分工業高等専門学校, 電気電子工学科, 准教授 (30508867)
竹下 慎二 和歌山工業高等専門学校, 電気情報工学科, 准教授 (30616800)
稲垣 歩 大分工業高等専門学校, 機械工学科, 講師 (50633400)
浅地 豊久 富山高等専門学校, その他部局等, 教授 (70574565)
太田 孝雄 奈良工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (80353267)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / 塗装剥離 / ストリーマ / 熱応力 / 架橋反応 / チッピング / プラズマ発生用ポータブル高電圧電源 |
研究実績の概要 |
初年度(令和2年度)は,新型コロナウイルス感染症の影響により,当初予定した実地検証等が困難であったが,実施可能な範囲で,本研究課題の目的である,1. 塗装が剥離し易くなるメカニズムを解明して本システムの有用性を検証,2. 本システムを産業応用した際の生産性に対する課題を解決,の2点を進行させた。 目的1については,ひずみゲージを用いた応力計測を行った。また,その結果とANSYS Mechanical APDL 1.9によるシミュレーション結果を照らし合わせて,メカニズムの推測を行った。さらにプラズマを塗装表面に照射したことによる影響を確認するため,走査型電子顕微鏡(以下,SEM)を用いて,塗装したサンプルの断面観察を実施した。ひずみゲージによる応力計測の結果,プラズマを発生させるときに印加する電圧が6 kVの時に約4.5 MPa,10 kV時に約2.0 MPaの応力が発生していることが得られた。またANSYSを用いた熱入力による塗膜凝集力のシミュレーション結果から,塗装とアクリルサンプル界面に生じる最大応力が約5.5~11.9 MPaであったため,ひずみゲージによる応力測定の結果と整合性があることを確認した。次にSEMによる断面観察では,EDS(エネルギー分散型X線分析)により,プラズマを照射した箇所のアクリルサンプルと塗装界面に空隙があることを確認した。以上のことから,熱が起因した塗膜凝集力(架橋反応)が生じ,塗装が剥離し易くなっていると推測された。 目的2については,ポータブル化された高電圧電源の設計を研究分担者と実施した。現状では,熱入力による塗膜凝集力の他に,交流高圧電源を用いてプラズマを発生させていることから,電子雲もしくはイオン雲が衝突することによる物理的現象もメカニズムとして推測されたことから,フライバックトランスを利用した高電圧電源を設計し,試作中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度(初年度)の研究成果から,プラズマを塗装した表面に照射することで,その塗装が剥離し易くなるメカニズムとして,熱が起因した塗膜凝集力(架橋反応)が大きく関係していることがわかった。今後は,この要因を活かして,多層塗装における任意の界面で剥離させ易くする手法を検討していく。また初年度に実地検証を行う予定であった,高速度カメラによる電子雲もしくはイオン雲の撮影,それらの持つ運動エネルギーを算出する準備を進めている。 また産業応用した際の生産性に関して,ポータブル高電圧電源の設計・試作を行った。しかしながら,電源容量の不足から,思うようにプラズマを生成することが困難であるため,電源容量の拡充を念頭に,高電圧電源の設計・製作を進めている。併せて,これらの成果を踏まえ,生産性向上の検討を実施している。 最後に,国内・国際会議での発表に向けた準備も進めており,令和2年4月に投稿した学術論文については同年11月に承認(accept)され,2021年1月に出版された(IEEE Transactions on Plasma Science, Vol. 49, pp.77-82, DOI 10.1109/TPS.2020.3041027)。また令和2年度(第11回) 電気学会九州支部高専研究講演会(R3年3月)において,電源設計・製作に関する内容で発表した。 以上の事から,研究の目的の達成度は「おおむね順調に進展している。」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の研究成果として,プラズマを塗装した表面に照射することで,その塗装が剥離し易くなるメカニズムとして,熱入力が起因した塗膜凝集力が大きく関係していることがわかった。令和3年度は,この要因を活かして,多層塗装における任意の界面で剥離させ易くする手法を発案し,実験および検証を重ねていく。また初年度に実地検証を行う予定であった,高速度カメラによる電子雲もしくはイオン雲の撮影,それらの持つ運動エネルギーを算出する準備を進めていき,ANSYSを用いた熱入力による塗膜凝集力のシミュレーションに組み合わせることで,塗装とアクリルサンプル界面に生じる最大応力を求めていく。これにより,ひずみゲージによる応力測定の結果との整合性が高くなり,より定量的なメカニズム解明につながる。 また同年度に設計・製作した,ポータブル高電圧電源の容量を拡充し,必要とされるプラズマの生成および検証実験を引き続き行っていく予定である。なお検証実験に関しては,新たに設計・試作しているポータブル高電圧電源の完成を待つまでに,当初予定していた容量800VAよりも小容量の既存する高電圧電源(150 VA程度)を使用して,これまでに得られた実験結果と同様の成果・傾向が得られるのかを実験により検証していく。 最後に,これまでの研究成果を国内・国際会議等で発表することや,オープンキャンパス等の機会を利用して小中高の生徒が分かり易く理解できるような出前授業等を企画していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により,申請時当初に予定していた実地実験ができなくなったことにより,支出予定であった出張費の執行ができなかった。この初年度分の未使用分を,ポータブル高電圧電源の製作や同高電圧電源の外部バッテリー費,解析用パソコンの購入に使用する予定である。
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