舶用エンジンから排出されるブラックカーボン(BC)は、北極海域では雪氷を溶かし温暖化を促進するとして、国際海事機関(IMO)において規制が検討されている。IMOの推奨するBC計測法は、いずれもBCの光吸収を利用する計測法である。そのためBCの形状や粒径、有機炭化水素による被膜などによって計測値が影響を受ける可能性がある。またBC排出量は、舶用燃料の種類や舶用エンジンの運転負荷率に依存する。そこで、燃料組成がブラックカーボンの排出量および光吸収特性に与える影響を明らかにするため、留出油と残渣油を用いて、燃料油中に含まれる炭化水素成分、BCに吸着して排出される炭化水素成分、排出されたBCの形態について研究を行った。留出油(LSA)および低硫黄残渣油(LSC)、高硫黄残渣油(HFO)について、燃料油中炭化水素の組成(飽和分、アロマ分)を調べたところ、アロマ分の量はHFOが最も多く、LSAとLSCでは同程度であった。BCの排出量はエンジン負荷率が高い場合は燃料に依存しなかったが、低負荷率では、高負荷率に比べBC排出量が高く、また燃料によってその排出量に大きな差があった。特にLSCはHFO、LSAよりもBC排出量が高く、燃料油中のアロマ分だけがBC排出の要因ではないことが明らかになった。燃料のGC/MS分析を行ったところ、LSAは炭素数が16-25程度の飽和直鎖炭化水素が主成分だったが、LSCでは炭素数25-34程度の、より高分子の飽和直鎖炭化水素に加え、BCの前駆物質と言われる多環芳香族炭化水素も多く含まれることがわかり、飽和分・アロマ分の比率だけでなく、各成分の構成要素がBC排出量に寄与していることが明らかになった。
|