研究課題/領域番号 |
20K04963
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
西脇 芳典 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 准教授 (50632585)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 科学捜査 / 非破壊 / 異同識別 / X線分析 / 触媒 / マイクロビーム / 微量元素 / 単繊維 |
研究実績の概要 |
本研究は、放射光を用いた蛍光X線分析(XRF)とX線吸収微細構造分析(XAFS)を組み合わせ、単繊維に含有する微量元素成分・染料と触媒の化学構造に着目した社会安全に資する単繊維の新規非破壊異同識別法の開発を目的とする。刑事犯罪解明には、単繊維の異同識別は極めて重要である。繊維は非常に身近な製品であることから、殺人・窃盗・痴漢・強姦など多くの犯罪の証拠試料になる。繊維は、動物・植物繊維、合成繊維に大別される。単繊維は再鑑定に備えて非破壊で分析することが強く求められるが、現行法では異同識別できないケースは多く、新しい方法が求められている。 本年度は、放射光測定の最適化と白色ポリエステルを主対象にXRF測定を実施した。その結果、縦方向に集光した20 keV マイクロビームX線を励起光として用いた放射光XRF分析は、衣料用ポリエステル白色単繊維の非破壊異同識別法として有用であることを明らかにした。集光しない場合と比べて、縦集光マイクロビームは単繊維中元素の蛍光X線強度を約12.8倍高感度に検出できる効果があった。本法の検出限界は塩素で8.15ppm、臭素で0.06ppmであり、非破壊で高感度元素分析することができることがわかった。分析試料には、日本国内で広く流通している白色衣料から採取したポリエステル繊維22種類を用いた。艶消し剤に二酸化チタン顔料由来のTi、艶消し剤由来の不純物元素であるジルコニウム、ニオブ、重合触媒由来であるアンチモン、エステル交換触媒由来のコバルト、触媒残差由来の臭素が検出された.衣料用ポリエステル単繊維の識別にはチタンとアンチモンおよびジルコニウムとニオブのX線強度比の比較が有効であった。さらに検出されたその他の微量元素を識別指標に加えることで98%の識別が可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
測定条件、サンプルのセッティングを順調に実施できた。 ポリエステル単繊維から、微量元素が検出され、識別に有用な指標が明らかになりつつあり、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ポリエステルだけでなくアクリルやナイロンなどの化学繊維および絹やウールなどの天然繊維の測定を実施する。以下の項目について推進する予定である。 1.単繊維分析のための放射光XAFSの実験条件の確立:軽元素が高感度に測定できるコリメーターを作成し、軽元素(Na、P、K、Ca)の高感度XRF・XAFS測定を可能にする。XRF測定により微量元素成分とその濃度を自動算出し、迅速に有意なXAFSスペクトルを得る条件を決定する。 2.単繊維のXRF・XAFSスペクトルデータベースの作成: 製造メーカー・製造年・使用目的等の情報が明確な繊維約200種類について、染料・触媒の特徴に基づいた単繊維データベースを作成する。 3.放射光XRF・XAFSを用いた単繊維の異同識別:実際に流通している単繊維について、明らかになった微量元素成分、染料・触媒の化学構造情報から異同識別できることを示す。従来法による分析を実施して比較し、本法が従来法より優れた手法であることを証明する。
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備考 |
webマガジン「ほとんど0円大学」で紹介された。本研究の内容を含む。
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