研究実績の概要 |
単繊維は、殺人・窃盗・痴漢・強姦等多くの刑事犯罪を解明するための重要な証拠試料である。しかし、微細な上、裁判における再鑑定に備えるため、非破壊での分析が求められる鑑定が難しい試料である。形状・色・材質だけを見るよりも染料や触媒の種類は多様なので識別する上で有利なのは明らかだが、単繊維に含有する微量元素成分・染料や触媒の化学構造情報は異同識別に全く用いられていない点に着目した。本研究の目的は、放射光を用いたXRF・XAFSを組み合わせ、単繊維の微量元素成分・染料と触媒の化学構造情報を総合的に活用した単繊維の新規非破壊異同識別法を確立することである。 本年度は、前年度に確立した分析条件を用いて、主に天然繊維である絹の単繊維について放射光XRFおよびXAFS分析を行った。赤色絹を市販の絹衣料品から収集し、実験に用いた。断面観察のため、ミクロトームで断面薄片を作製した。放射光X線分析用サンプルホルダーに単繊維を橋掛けして測定に用いた。 断面を観察したところ、いずれも絹特有の細長い三角形の断面をしており、染色の進度によって「表面のみ」、「中心部の色が薄い」、「中心部まで均一」の3グループに分類された。放射光XRFにより、絹のタンパク質由来のS, 蚕の取り込み元素であるCl, Ca, Fe, Znおよび染料由来であるCr, Co, Brが検出された。CrとBrの有無に着目したところ、3タイプに分類された。その後、X線強度比を用いて比較した結果、全てについて識別が可能であった。特にCr/S X線強度比は、染色絹繊維の識別において重要な役割を果たすことがわかった。一方、染料由来のCrについてXAFS測定を行った結果、3価で存在することがわかった。吸収端近傍のXANESでは有意な違いが得られなかったため、EXAFSによるさらなる解析が必要であった。
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