研究実績の概要 |
本研究の目的は、放射光を用いたXRF・XAFSを組み合わせ、単繊維の微量元素成分・染料と触媒の化学構造情報を総合的に活用した単繊維の新規非破壊異同識別法を確立することである。 本年度は、前年度に確立した分析条件を用いて、主に広く流通している合成繊維であるポリエステルの白色単繊維について放射光XRFおよびXAFS分析を行った。断面観察およびそのXRFイメージングのため、ミクロトームで断面薄片を作製した。作成した放射光X線分析用サンプルホルダーにマウントして測定に用いた。一般的に行われているFT-IRによる識別も試みた。また、放射光測定前の実験室でのスクリーニング方法の検討を行った。断面を観察したところ、酸化チタンのつや消し剤が認められたが、その定量的な評価は困難であった。FT-IRにより、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ1,4-シクロへキシレン-ジメチレンテレフタレート(PCDT)を吸収ピークから識別できた。従来法での識別能力は約25%だった。実験室での測定を試みたところ、単繊維では困難であったが、10本程度の糸状であれば、おおよそのスクリーニングが可能であった。放射光XRFにより、S、Cl、Ti、Mn、Fe、Co、Zn、Ge、Br、Sbが検出された。検出された元素から14パターンに分類された。Ti/Mn、Ti/Sb、Mn/Sb X線強度比を再現性良く取得できることがわかった。放射光を用いたXRF・XAFSを組み合わて用いると、435通りの組み合わせのうち、4ペアを除く431組の識別が可能であり、その識別能力は約99%であった。微量元素成分、染料・触媒の化学構造情報を従来法に加えることで、異同識別能力が飛躍的に向上することが明らかになった。
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