最終年度の仮説は,「ネット依存症傾向と新型うつ傾向,および生活ストレスが高い学生ほど,デジタル認知症傾向が悪化する」と,「レジリエンスと共同運動愛好度およびQOLが高い学生ほど,ネット依存症傾向や新型うつ傾向およびデジタル認知症傾向が抑制される」は,大学生を対象にした縦断調査に基づく共分散構造分析の手法でほぼ検証された。また,これら3種類の傾向の連鎖的な悪影響に対する予防策として,特にレジリエンスの向上と共同運動愛好度の重要性が示唆された。 その中でもレジリエンスの新型うつ傾向等への予防効果は顕著であることから,レジリエンスを向上させるネット利用効果に関して,下記の仮説検証の一般化を試みた。 それは,「共感的ネット利用が多い学生ほど,レジリエンスが高い傾向を示す」であり,共感的ネット利用は「オンライン上(メール,SNS,音声・ビデオ通話)で苦楽を共有し相互に励まし合うこと」と定義する。この仮説は,特定のA大学での縦断調査で検証済みであるが,日本国内の大学生へ調査対象を拡大し,コロナ禍で変化した情報環境を反映させることによって先行研究で示された効果の一般化を目指し,2022年4月,7月の計2回,国内の大学1~4年生を対象に5段階評定法による縦断調査を行った。2回ともに回答を得られた有効回答数は668名である。その結果,共感的ネット利用からレジリエンスへの直接効果と併せて,連鎖的な間接効果によって検証された。さらに別件の縦断調査では,レジリエンスの向上に対し,重要と想定される利他的価値観,共同運動愛好度,共感的ネット利用,良書読書,活力型動画視聴が,この並び順に向上効果を示した。また,他の要因からのレジリエンスの向上に対して利他的価値観の寄与度が最も高く,上記の二種類のネット利用がこの自他共の幸福の向上に努力するライフスタイルである利他的価値観を高めることの重要性も示唆された。
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