研究課題/領域番号 |
20K04976
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
佐藤 公俊 神奈川大学, 工学部, 准教授 (60609527)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 価格決定 / 収益管理 / アルゴリズム / 確率モデル |
研究実績の概要 |
本研究では,電子商取引における価格設定のアルゴリズムの公平性を評価するための手法を開発し,市場の透明性および消費者間の公平性の向上を実現することを目的とする.本年度は(i)需要関数が未知の価格決定モデルの先行研究の調査と実装,(ii)インターネットボットによる購入意思のない自動予約を考慮したダイナミックプライシングモデルの構築について研究をおこなった.(i)では,強化学習を価格決定に応用した既存研究とアルゴリズム間の共謀に関する研究の文献調査を実施した.その後,スポーツチケット販売に対して強化学習の手法であるトンプソンサンプリングを用いた供給制約のある価格決定モデルを適用した.従来手法と比較して,販売データを用いた需要関数の学習によって収益の改善が見られたが,需要関数の学習に要する探索期間において価格変動が大きくなるため,消費者余剰の観点からは価格の設定領域を調整する必要があることを確認した.(ii)の研究は,近年のチケット販売においてボットを用いることで,空き状況や競合価格の検索,不当な予約,大量買い占めによる転売などが行われている.こうしたプログラムによる購入意思のない自動的な買いやキャンセルの頻度が増すことで,企業の在庫量が頻繁に増減し,価格の変更頻度が高まる点に着目し,ボットを考慮した価格決定モデルを確率的動的計画法によって定式化した.モデル分析の結果,ボットによる予約が多いほど,販売価格の平均的な低下につながり,企業の総収益が減少することを示した.また,ボットの存在を考慮した最適価格政策を適用することによって,企業収益と消費者余剰の総和で定義される社会的厚生を改善できることを示した.さらに,本年度は上記の研究に加えて,これまでの収益管理とダイナミックプライシングに関する研究をまとめた書籍を出版した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的は,機械学習の一つである強化学習を用いた価格決定モデルのモデルとアルゴリズムの文献調査とインターネットボットが価格決定に与える影響を明らかにすることである.前者の文献調査については,アルゴリズムを実装し,実データに適用することで価格変化の振る舞いを確認することができた.その成果をまとめ研究会にて発表するところまで進められたため,目的はおおむね達成できたといえる.また,後者のインターネットボットに関する研究は,最適価格に関する定性的な結果とシミュレーションによる数値結果の両者が得られ,その成果を学術論文に掲載することができた.また,これまでの研究成果とともに収益管理の基礎を書籍にまとめたことも一つの社会貢献であると考える,従って,達成度の評価として,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,競争市場におけるアルゴリズムの共謀に関する研究を実施する.本年度の文献調査により得られた知見に基づき,競争環境下における価格決定モデルを確率的動的計画法によって構築し,価格カルテルの発生メカニズムを明らかにすることを目的とする.まず,各企業が独自にアルゴリズムを用いた場合と両企業が同一のアルゴリズムを用いた場合とで,販売期間内の平均価格を分析し,価格の高止まりの有無を検証する.その後,感度分析を行いカルテルが生じるための要因を明らかにする.さらに,どのような競争環境で共謀が継続されるかについても明らかにする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により学会等の国内外出張が実施できなかったため.次年度は今年度の知見に基づきアルゴリズムを実装するため,高性能な計算機を購入する予定である.
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