本研究では,電子商取引における価格設定のアルゴリズムの公平性を評価するための手法を開発し,市場の透明性および消費者間の公平性の向上を実現することを目的とする.本年度は(i)競合市場における動的価格の同調と継続条件の分析,(ii)購入選択権付きレンタル販売を考慮した価格決定モデル,について研究をおこなった.(i)の研究は,競合する企業がそれぞれに動的に価格決定する際に共謀(カルテル)が維持されるための条件を明らかにすることを目的とする.多項ロジット需要関数の下で動的価格決定モデルを定式化し,同一市場に企業数が多い場合に共謀が起こりやすく,各企業が提供する商品・サービスに品質や容量の差が少ないときに共謀が持続することを明らかにした.(ii)はオンライン販売において一定期間のレンタル後に購入することのできる権利を有した購入選択権つきレンタル契約の導入による利益の改善効果を分析することを目的としている.消費者が商品を使用した際に感じる満足感や効果の不確実性を考慮した新たな購買行動モデルを構築し,そのモデルに基づく需要関数の下で利益最大化モデルを定式化した.商品の最適な価格および最適なレンタル価格を解析的に導出し,利益改善効果を示した.(i)については関連学会において研究結果を発表し,(ii)については研究成果を学会発表するとともに論文誌に掲載した. 研究期間全体を通して,インターネットボットによる自動予約や機械学習を用いた価格決定,企業間の共謀など様々な状況におけるアルゴリズムに基づく価格決定が消費者に与える影響を解析的および数値的に分析した.分析の結果,アルゴリズムを用いた価格決定は企業収益の増加に役立つが消費者余剰を減少させる可能性のあることが明らかとなった,このため,価格決定アルゴリズムの開発において,消費者余剰の低下につながる内外要因を予め考慮する必要があるといえる.
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