研究課題/領域番号 |
20K04978
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原口 和也 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (80453356)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 離散アルゴリズム / 離散列挙 / 離散最適化 / 強化学習 |
研究実績の概要 |
離散問題(離散最適化問題、離散決定問題、離散列挙問題など)はオペレーションズ・リサーチやデータサイエンスにおいてきわめて重要な応用を持つ。本研究は離散問題に関する以下の問いに対する答えを、事例研究を通じて模索するものである。(a) 離散問題をどのように部分問題に分解して解けばよいのか。(b) 部分問題を解くためのアルゴリズムをどのように統合して、元の問題を解くのに用いればよいのか。(c) ある問題について効果的なアプローチを、ほかの関連問題をどのように適用すればよいのか。(d) 一連のアルゴリズムをどのように実装すればよいのか。 2021年度の成果およびその意義は以下のとおりである。(1)要素の集合とその部分集合族から成る対を集合システムという。合流システムと呼ばれる集合システムに関してある列挙問題を考え、逆探索に基づいた多項式遅延アルゴリズムを提案した。その列挙問題とは、各要素にアイテム集合が付された合流システムが与えられ、共通アイテム集合に関して極大な部分集合をすべて列挙することを問うものである。この問題はデータマイニングにおける相関ルール抽出問題の一般化である。また様々なクラスの部分グラフ列挙問題を含み、その中にはこれまで多項式遅延アルゴリズムが知られていなかったクラスも含まれる。この成果の最大の意義は、多項式遅延で列挙可能な集合システムの範囲を押し拡げ、理論の発展に寄与したことである。一連の成果をまとめた論文を、離散アルゴリズムに関する著名誌の一つであるAlgorithmica上で発表した。(2) NP困難問題に対する欲張り法に用いる評価関数を強化学習によって獲得するための研究が近年盛んに進められている。その多くは深層学習を用いたものだが、高価な計算コストと過剰学習が懸念される。そこでより簡素な学習モデルを用いてこれを実現するべく、モデルと実装の整備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで取り組んできた問題に対し、今後のベースラインとなる成果を上げることができた。また結果を整理し、次年度以降の深化に向けた課題をまとめた。 離散列挙問題に関して、集合システムベースの列挙問題は30年以上前から考えられてきたが、従来研究の関係を整理し、その関係の中で合流システム上の列挙問題を取り扱う意義を与え、成果(多項式遅延アルゴリズムの開発)を出すことができた。結果はフレームワークレベルのものであるため、個別事例への適用、また適用にあたっての高速化、実装等は今後の課題の一つである。このアルゴリズムは従来の家系木法を用いたもので、大きな部分集合から小さな部分集合に向かって親子関係を定めているが、それを逆向きに行うことの可能性について検討を開始している。 一方離散最適化問題に関しては、機械学習技術を用いたアプローチの盛り上がりが無視できなくなっている。たとえば、従来ハンドクラフトによって設計されてきた近似解法を、機械学習技術によって獲得しようという研究が盛んに行われている。当該分野で認知されているある国際会議では、機械学習を用いた近似解法に関する論文が多数アクセプトされるようになった。今はまだハンドクラフトの近似解法には及ばない、試行レベルの研究がほとんどだが、近い将来に取って代わられると判断し、機械学習を用いた近似解法にシフトすることにした。そのため昨年度はモデルと実装の整備を行い、予備実験を開始した。すでにいくつかの知見が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの進捗状況」で挙げたような課題について取り組み、完成を目指す。多くの研究会や国際会議がオンラインで実施されている現状を鑑み、旅費として予定していた額の一部を物品費(オンライン環境整備および維持)や人件費(実験補助)に回す。また研究の一部は、所属機関の修士論文および卒業論文作成指導を通じて行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に大容量メモリを搭載したワークステーションを購入したが、当方で予定していた価格(110万円程度、定価)よりも大幅に低い価格(60万円程度)で購入することができ、予算計画に大きな変更が生じたためである。繰越額は上記ワークステーションの維持費として、すべて物品費に割り当てる。
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