研究課題/領域番号 |
20K04980
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
河西 憲一 群馬大学, 情報学部, 准教授 (50334131)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 待ち行列理論 / 応用確率過程論 / モデル化 / 性能評価 |
研究実績の概要 |
本研究課題では客がサービスを受けずに途中退去する待ち行列モデルに対して,客の待ち時間分布などの性能評価指標を得るための新たな数値計算アルゴリズムを探求することを目標とした.従来の方法では同待ち行列モデルにおける到達待ち時間の確率密度関数を二つの行列指数関数の混合で表現する解形式を基礎としていたが,本研究では一般化された行列指数関数ではあるものの,混合ではない単一の解で表現することを特徴する.本年度は単一クラスの客がポアソン過程に従って到着することを前提に同待ち行列モデルを解析し,過去の検討結果を含めて主に次の結果を得た.すなわち,1) 一般化された行列指数関数によって到達待ち時間の確率密度関数が表現できること,2) 一般化された行列指数関数による解形式を構成する行列が二つの行列に分解でき,そのうちの一方が確率行列となり,非対称Ricatti微分方程式を満たすこと,3) 一般化された行列指数関数について分解公式を適用することで到達待ち時間の確率密度関数が数値的に評価可能であること,である.これらの研究成果は従来の解析手法を自然に拡張した方法で得られた結果であり,単一の行列指数関数に解形式を統一化することが可能であることを示した点に意義がある.また,従来の待ち行列理論での方法ではあまり検討されてこなかった,非加算集合を状態空間とするマルコフ過程でも行列指数形式解を状態依存とすることで表現できる点を示したことにも意義がある.付け加えるならば,本研究で得た単一の行列指数関数による解形式は到達時間に依存した形式で与えられており,いわゆるレベル依存型準出生死滅過程の定常分布との類推からも興味深い形式である.さらには,単に理論的な側面だけでなく,本解形式により近似誤差は含むものの数値的にも評価可能な方法を提供することにも意義がある.以上の研究成果を国内学会発表にて公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の初年度の目標は,一般化された行列指数関数によって,本研究が対象とする待ち行列モデルの到達待ち時間に関する確率密度関数が表現できるかについて,主に理論的に検討することであった.これまでの研究で蓄積してきた理論的な知見も生かして研究成果を得たこともあり,初年度に設定した所期の目的は概ね達成できたと考えられる.主な理論的な成果は,1) 一般化された行列指数関数によって到達待ち時間の確率密度関数が表現できること,2) 一般化された行列指数関数による解を構成する行列が二つの行列に分解でき,そのうちの一方が確率行列となり非対称Ricatti微分方程式を満たすこと,3) 一般化された行列指数関数について分解公式を適用することで到達待ち時間の確率密度関数が数値評価可能であること,である.初年度においてはさらに検討を進めて数値計算アルゴリズムを具体化したが,計算負荷が少なくなるような比較的規模が小さい待ち行列モデルでの検証にとどまっており,その点において課題が残る.しかしながら,分解公式を適用することが理論的にも確認でき,さらに分解公式を適用したときの数値計算精度も理論結果と整合する点まで確認できたため,概ね順調に推移していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後の当面の課題は客の到着過程を単一クラスのポアソン過程ではなく,多クラスのポアソン過程を前提にして検討することである.異なるクラスでは途中退去するまでの時間が異なることを想定する.このように拡張することですべてのクラスを含めた客全体の到着過程はポアソン過程を前提とするものの,クラス数を増やすことで途中退去する時間の確率分布が一般的に与えられるモデルを近似的に扱うことが可能となり,途中退去時間の確率分布を一般化した待ち行列システムを考える上で有益である.例えば,従来の解析手法に基づいた結果ではあるが,待ち率などの性能評価指標の上界と下界を与えるモデルが構築可能である.加えてポアソン到着する客を途中退去する時間に応じて多クラスにすることは,本研究の基礎となる分解公式を適用した数値計算アルゴリズムを構築する上でも親和性が高い.なぜならば,分解公式を適用するためには,状態空間を構成する到達待ち時間を細分化する必要があるが,途中退去する時間に応じて多クラス化することを到達待ち時間の細分化と連動して実施することで,分解公式を評価する回数を削減し,かつ数値計算誤差の蓄積を抑制した評価が期待できるからである.以上の見通しを踏まえて,今後は多クラス化した場合の数値計算アルゴリズムの評価を中心に検討を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は感染症の拡大防止を目的として国内学会,研究会,国際会議などそれらのほとんどがオンライン形式での開催となり,出張旅費が全く発生しなかったことが大きな理由である.また数値計算アルゴリズムの性能評価が小規模なモデルにとどまっており,高性能な計算機を使用するまでに至っていない.令和3年度以降は高性能な計算機を導入し,本格的に数値計算アルゴリズムの検証を進めていく.また感染症の終息状況を見極めつつ,国内国外での研究会および国際会議のための出張旅費に使用する.
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