研究課題/領域番号 |
20K04996
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研究機関 | 科学警察研究所 |
研究代表者 |
渡邉 大助 科学警察研究所, 法科学第三部, 主任研究官 (80462753)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 顕微分光 / 繊維分析 |
研究実績の概要 |
3年計画の研究初年度である本年度は、本来分光検出機能を持たない一般的な光学顕微鏡を用いて、単繊維試料の分光スペクトルを測定するための試作機の開発を行なった。まず、ファイバ入射型の小型分光器を入手し、このファイバ先端を顕微鏡の接眼レンズ取り付け穴にカップリングすることで、接眼レンズに届く光を分光器に導入するシステムを製作した。また、単繊維のような微細試料を測定するためには、測定範囲を微小領域に制限する必要があるため、装置内部の試料の中間像が結像する位置に直径200ミクロンのピンホールを設置した。これにより、40倍の対物レンズを用いた場合には、直径5ミクロンの微小範囲に限定した測定が可能となった。入射光の光源には顕微鏡内蔵の観察用ハロゲンランプが利用できる。この透過光スペクトルを測定したところ、およそ400~800nmの範囲で強度を持つことが確認され、この波長範囲でのスペクトル測定が可能であることが明らかとなった。 今回作成した装置は、顕微鏡本体からは完全に独立したシステムであるため、基本的に既存のいかなる顕微鏡に対しても、顕微鏡本体には一切改造を加えることなく取り付けることができる。従来、微細試料のスペクトル測定には専用の高額な顕微分光装置が必要であったが、本研究の成果により、安価な通常の顕微鏡であってもスペクトル測定が可能となり、分析者の目視による主観的な識別ではなく、スペクトルに基づく客観的かつ精密な識別が可能となることが示された。現状までの成果については、2020年度の日本分光学会年次講演会で発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度では、必要物品の調達とスペクトル測定装置の試作機の製作が目標であり、その目標を達成することができた。繊維試料の色調の客観的な識別のためには、可視領域である400~800nmの波長範囲でのスペクトル測定が求められるが、顕微鏡内蔵の観察用光源の透過光スペクトルを測定したところ、この波長範囲で十分な透過光強度が確認された。また、微細試料の測定のため、装置内部にピンホールを置くことで測定範囲を直径5ミクロンに制限したが、一般的な化学繊維の直径は10~20ミクロン程度であることが多く、これは繊維の分析に十分な空間分解能を持つものと言える。仮により高い空間分解能が必要となる場合は、このピンホールの径を小さくすることで対応可能である。 以上のように、繊維分析に必要な性能を持つスペクトル測定装置の開発に成功し、研究2年目以降に予定されている、実際の繊維試料への応用のための準備を完了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目には、開発した装置を通常の光学顕微鏡に取り付け、実際の繊維試料のスペクトル測定を行う。これに当たっては、光学顕微鏡を用いた一般的な顕微分光だけでなく、偏光顕微鏡を用いて偏光色の測定も行う予定である。これは、化学繊維のような強い異方性を持つ試料に対しては、光吸収の偏光特性を知ることが、識別の大きな手がかりとなるためである。本装置を用いて測定されたスペクトルの評価には、市販の顕微分光装置を用いて同一試料の分析を行い、その結果の一貫性を検証する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルスの影響で、予定していた学会等が全て中止またはオンライン開催となり、旅費の支出が全く発生しなかった。次年度については、社会状況を考慮しつつ、可能であれば予定通り学会等に参加を検討し、それが不可能な状況であれば、やむを得ずその他の用途に振り替える予定である。
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