研究課題/領域番号 |
20K05002
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
成瀬 央 三重大学, 工学研究科, 教授 (60402690)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光ファイバ / ブリルアンゲインスペクトル / 計測 / ひずみ / 非負値行列因子分解 / ニューラルネットワーク / モデル |
研究実績の概要 |
光ファイバ内で生じるブリルアンゲインスペクトル(BGS)の周波数がひずみに比例してシフトする性質を利用した光ファイバひずみ計測方法は、長距離にわたっての分布計測が可能である。そのため、この方法をベースとしたシステムは、今後の人口減少によって困難が予想される、インフラなど設備の損傷検出や維持管理に有望である。しかしながら、ひずみ計測位置を中心とする観測区間内で生じたすべてのBGSが観測され、それが解析されるために、局所的なひずみを検出できない、ひずみ変化部分では計測誤差が増加する問題がある。これらの問題を克服するために、(1)BGS解析に非負値行列因子分解を用いたBGS観測区間内の最大・最小ひずみの抽出方法と、(2)BGSの解析にニューラルネットワークを用いたひずみ計測方法の開発に取り組んだ。 構造物は、高い最大引張りひずみと最大圧縮(最小)ひずみが生じている部分で損傷を受けている可能性が高い。(1)は各ひずみ計測位置において、これらのひずみを観測区間内のBGSから検出するための方法である。平成2年度に開発したソフトウェアを用いて、ステップ的、また直線的に変化するひずみや、それらの変化の度合いを変化させながら、最大・最小ひずみの抽出特性を調べた。また、スパース性制約の導入のための基礎検討を行い、抽出の際に用いるしきい値の決定に有効である見込みを得た。 (2)は、ひずみを計測する位置とその両側に隣接する複数の位置で観測されたBGSを用いて、不均一なひずみに対しても高速かつ高精度にひずみを計測するための方法である。BGSと、それと対をなすひずみを関係づけるためのNNに対し、その中間層の数と各層のノード数や、中間層と出力層の活性化関数などを試行錯誤によって決定した。そのNNを用いてシミュレーションと実験を行い、高精度かつ高速にひずみを計測できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスによる研究活動の制約はあるものの、以下のような進捗が得られたことがその理由である。 (1) BGS解析に非負値行列因子分解を用いたBGS観測区間内の最大・最小ひずみの抽出方法の開発 平成2年度に開発したソフトウェアを用いて、典型的な2種類のひずみ、すなわち、観測区間内の一部分にのみ(局所的)に生じているひずみと観測区間内で線形に変化するひずみに対する計測特性を調べた。抽出誤差は、前者の場合にはひずみが生じている(あるいは生じていない)区間が短くなるにつれて大きくなる、ひずみの大きさにはかかわらないこと、後者については、ひずみ変化の傾きが大きくなるにつれて抽出誤差が大きくなることがわかった。これらの検討に加え、本方法の性能向上に向けて、スパース性を導入した分解方法についての基礎検討も行った。 (2) BGS解析にニューラルネットワークを用いたひずみ計測方法の開発 平成2年度に開発したソフトウェアを用いて、本計測方法の計測特性を評価した。最大3本の直線で表現される不均一ひずみモデルを用いて作成された、100万個のBGSと周波数のペアと、これとは別の評価用の10万個のペアによってニューラルネットワーク(NN)の学習を行った。NNは、入力層、4層の中間層、出力層を持つ全結合型誤差逆伝搬NNであり、入力層と出力層のノード数はそれぞれ、今回のひずみ計測に用いたBGGの個数と同じ363個、出力されるひずみに対応する周波数の1個である。シミュレーションによって、二乗平均平方根誤差(RMSE)2.64×10の-6乗の高い精度で、また、10万点に対して1.5秒の高速でひずみを計測できること、また、シミュレーションと実験によって円環に生じる正弦波状に変化するひずみの計測を行い、それぞれ5.14×10の-6乗と8.66×10の-6乗のRMSEで計測できることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) BGS解析に非負値行列因子分解を用いたBGS観測区間内の最大・最小ひずみの抽出方法の開発 各ひずみ計測位置で観測されたBGSから最大と最小のひずみを抽出するためには、非負値行列因子分解によって得られる基底の係数に対してしきい値処理を行う必要がある。このしきい値の設定がひずみの抽出に影響を与える。これまでの方法では、BGSに寄与していない基底の係数の値が十分小さくなっておらず、適切なしきい値の設定が困難であった。この問題を解決するために、BGSに寄与していない基底の係数の値を0とするスパース制約を導入する検討を行う。これを具体化するためのソフトウェアを作成し、シミュレーションと実験によって、ステップ状、線形状、また、放物線状に変化するひずみに対して、スパース性の導入効果について調べる。 (2) BGS解析にニューラルネットワークを用いたひずみ計測方法の開発 本方法は、ニューラルネットワークに入力するBGSの周波数領域を決定する粗探索と、それに続く、粗探索された領域内のBGSを用いた精密探索から構成されている。BGSは、想定されるひずみをカバーする広い周波数範囲にわたって観測される。このBGSをそのまま用いると、学習データの数が膨大となる。そのため、解析に用いるBGSの周波数範囲を適切に設定するための粗探索が必要である。この粗探索では各計測位置において、ひずみが、それに対応した周波数を中心に設定された周波数範囲にあることが判定条件として用いられる。この粗探索方法の実装にあたっては、精密探索との整合性を考えNNを用いる。設定周波数範囲が与える誤判定率への影響、また、祖探索に続く精密探査の計測誤差への影響などについて調べていく。 上記の開発において得られた成果を、国内外の会議などで発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの世界的な広がりが治まらなかったために、令和2年度に予定されていた光ファイバセンサ国際会議が令和4年度に再延期されたこと、令和3年度に予定されていた光ファイバセンサ国際会議やアジアパシフィック光センサ国際会議が開催されなかったこと、国内での研究発表がオンラインとなったことから、本研究の申請時に計画していた研究発表のための旅費や参加費の支出がほとんどなくなった。また、有限要素法解析ソフト保守費を別経費から支出した。これらの理由によって、令和3年度の支出額が計画額より大幅な減額となった。減額分については、令和4年度に再延期された光ファイバセンサ国際会議などの、今後の国際会議や国内学会での研究成果発表のための旅費や参加費、英文校正費として使用する。
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