研究課題/領域番号 |
20K05003
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
臼井 伸之介 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 教授 (00193871)
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研究分担者 |
森泉 慎吾 帝塚山大学, 心理学部, 講師 (50735066)
秋保 亮太 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 助教 (50825130)
上田 真由子 関西国際大学, 心理学部, 准教授 (70823764)
中井 宏 大阪大学, 大学院人間科学研究科, 准教授 (90583526)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 労働安全 |
研究実績の概要 |
交通事故や労働災害発生の主要な背景要因である、安全規則違反の抑止には法規制などの罰、目標達成への報酬、安全教育などが主に対策として実施されている。本申請研究では新たな視点として、「人の心理面から違反抑止に作用する効果的なメッセージ表現とはか?」を明らかにする。従来、標識などによる違反抑止のメッセージ表現は、「〇〇禁止」のような禁止・命令型が多いが、ここでは「〇〇ありがとう」という感謝型メッセージ表現、すなわち感謝-返報という人間の互恵性心理に着目し違反抑止を動機づけるという新たな抑止策を提案する。 そこで本申請課題では、以下3点を目的とする研究を実施することとした。 目的Ⅰ.ドライビングシミュレータを用いた仮想環境場面において、感謝メッセージと禁止メッセージを伴う標識を提示し、参加者の実行動パフォーマンスの比較から感謝のメッセージ表現の違反抑制効果について検討する。目的Ⅱ.感謝メッセージにより生じた違反抑制効果は、メッセージの設置されていない状況においても波及するのか、また他の違反抑止にも般化するのかについて検討する。目的Ⅲ.感謝メッセージの効果について、仮想環境場面のみならず現実場面でも有効であるのかを、実際の鉄道踏切場面において検討する。研究の1年目、2年目ではドライビングシミュレータを用いた実験を実施し、感謝メッセージの違反抑制効果について検討した結果、感謝メッセージの標識提示条件でのみ、時間経過に伴う速度上昇を抑止する、ということが明らかにされた。ただし実験1,2では実験参加者が学生であったことや、制限速度を50km/hのみに設定したことなどが問題点と残り、研究3年目では引き続きドライビングシミュレータを用いてそれら問題点を検討するため、実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の1年目では、申請者の研究室が所持するドライビングシミュレータ(以下DS)およびプログラムソフトを用いて道路交通場面を作成した。また速度制限標識とともに看板として道路脇に提示される禁止・命令メッセージ表現を伴う表示ボード(以下ボード)と、感謝メッセージ表現を伴うボードを設置した。 研究の2年目では、1年目の予備的研究の結果を踏まえて作成した実験プログラムを用いてDS実験を実施した。参加者は普通自動車免許証を所有する大学生35名であった。設定した走行コースには50km/hの速度制限標識を設置した。分析では、コースを3分割してそれぞれを「初期」「中期」「終期」としてメッセージごとに各進行段階の平均速度を算出した。その結果、禁止型においてのみ、終期の速度が初期や中期よりも速く、感謝型においては中期から終期における速度変化がなかったことが示された。このことから、禁止型のメッセージによって速度上昇が促進される可能性が示唆された。 研究の3年目では実験参加者を運転経験10,000km以上の一般成人とし、また制限速度を50km/hと30km/hの2水準とした同様の実験を実施した。その結果、制限速度50km/hの場合のみ、終期の速度が初期の速度より速くなることがわかった。また、心理的リアクタンスに関する質問4項目から構成される質問紙に回答を求めた結果、制限速度50km/hにおいて、感謝型の方が禁止型よりリアクタンス得点が低くなることが明らかとなった。そこで研究3年目では実空間、具体的には鉄道の第三種踏切(遮断棒のない警報機のみの踏切)におけるメッセージ表現の効果を確認する実験を予定していたが、新型コロナの影響等から、実施の事前調整に想定以上に時間がかかり、研究の最終年度には実施出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目での実験の結果、走行の進行段階において、禁止型メッセージでは、速度の上昇が認められたが、感謝型メッセージではそのような上昇が認められず、心理的リアクタンスの観点から、禁止型と比較して、感謝型の方が違反抑制に有効であることが示唆された。また、研究3年目では、参加者を一般成人ドライバーとし、また制限速度として、30km/hの条件も加えて、ドライビングシミュレータを用いた実験を行ったところ、研究2年目の実験結果を一部支持する結果が得られた。ただこれまでの実験では指標として、走行速度という連続量を用いていたため、例えば制限速度を1kmオーバーする場合では、意図的な違反か非意図的なヒューマンエラーかの弁別が難しかった。 そこで次年度はこれまでと同様のドライビングシミュレータを用いるが、違反を「一時停止の有無」から測定する実験を実施し、引き続き感謝と禁止のメッセージ表現の効果について検討する。また、研究の3年目まではドライビングシミュレータという仮想環境下における実験であったが、次年度では、実空間におけるメッセージ表現の効果を確認する。具体的には鉄道の第三種踏切(遮断棒のない警報機のみの踏切)を対象とし、禁止または感謝メッセージを伴う標識を設置することにより、通過車両の一時停止状況を測定し、メッセージ表現の効果を現実場面において確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の2年目、3年目では、新型コロナ禍のため、実験参加者の募集等で遅れが生じ、実験が予定通り実施出来なかった。また、実施した実験結果を踏まえての新たな実験の開始も遅れた。 研究4年目では、これまでの実験から見いだされた問題を解決する新たな実験および鉄道の踏切横断という実空間における実験を実施し、またその分析結果のとりまとめと論文の執筆、投稿を行う。そのため、研究3年目に予定していた実験参加者の募集と実験補助および参加者への謝金、学会誌投稿料などは研究4年目に支出する。
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