研究課題/領域番号 |
20K05006
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
吉田 護 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (60539550)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 避難行動 / 避難の備え / 豪雨 / 台風 |
研究実績の概要 |
2021年度は、異質的な意思決定過程を前提とした避難行動モデルを構築、2020年に新たに実施した令和2年7月豪雨(熊本県人吉市、球磨村、八代市)の被災地域の住民を対象に実施した避難行動調査データを用いてパラメータ推計を行った。結果として、呼びかけ情報が避難行動の促進に有効に機能していたことを明らかにした。気象情報や避難情報は特定の個人に発表、発令される情報ではないため、その情報に対する当事者性は低く、システム2(遅い思考)が支配的な意思決定過程をへた一方で、よびかけ情報は、よびかけられた場合の当事者性は高く、システム1(早い思考)が支配的な意思決定過程をへたものと解釈される。危険性を認知する情報の種類の違いが、避難行動時に異なる意思決定過程を経ることを示せた点は今年度の成果の一つである。また、種々の情報取得が避難行動に及ぼした因果効果の推計について、同データおよび2018年7月豪雨時の避難行動データを用いて明らかにした。どちらの災害でも呼びかけ情報が”立ち退き”避難を促していたことが確認されたが、さらに、2018年7月豪雨では大雨特別警報や避難指示も”立ち退き”避難に有効に機能していたことを明らかにした。令和2年7月豪雨は未明を襲った豪雨災害であり、大半の住民は時間的猶予少ないの避難行動の意思決定を余儀なくされている。結果として、比較的遅い意思決定過程を経る気象情報や避難情報が有効に機能しえなかったものと考察される。住民の避難行動を促進するためには、災害の脅威が切迫していることを認識させる重層的な情報取得が必要となるが、システムIに加えてシステムIIの意思決定過程を機能させることを明示的に踏まえた情報システムの構築や個人、世帯、地域の備えを充実させるための方策が必要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、当初の予定通り、避難行動に関する異質的な意思決定過程に取り組んだ。取得する情報の種類によって意思決定過程が異なることを前提とした避難行動モデルを構築し、実際の調査データを用いてパラメータ推計を行った。結果として、気象情報や避難情報は避難行動に至るまでの意思決定過程が比較的遅く、一方で呼びかけ情報はその過程が早いことを明らかにした。研究計画段階では、情報の種類の違いが異質的な意思決定過程につながり得ることまでは想定できていなかったが、本成果は本研究が順調に進んでいることを示す証左である。なお、情報の種類の違いだけでなく、情報取得手段や状況認識過程も異質的な意思決定をもたらし得るものと推察される。どのように情報取得手段や状況認識過程が異質的な意思決定過程に関わっていくかを明らかにすることは今後の研究課題として位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は計画通り、避難の備えと避難行動の関係性の分析に努める。なお、避難の備えが避難行動に及ぼした因果効果の推計について、平成30年7月豪雨、令和2年7月豪雨のデータの分析は2021年度内に終えており、令和元年台風19号の際の分析を残すのみの状態にある。研究計画時点では、平成30年7月豪雨と令和元年台風19号の際の避難行動データを用いて、避難の備えと避難行動の関係性を分析する予定だったが、令和2年7月豪雨の調査データが加わったことにより、より包括的な研究の実施が可能な状況にある。豪雨災害と単にいっても災害の脅威が迫った時間帯や地域特性など地域によってその様相は異なる。また、豪雨災害と台風災害でもその災害の様相は異なる。そのため、2022年度は、これらの違いを踏まえて、避難行動の促進に有効な避難の備えの種類を明らかにすると同時に、避難の備えが避難行動に有効に機能する状況や条件についても明らかにする予定である。その上で、2021年度の成果である、避難行動に関する異質的な意思決定過程も踏まえて、適切な避難行動につながる避難の備えの促進策を検討する。
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