研究課題/領域番号 |
20K05014
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研究機関 | 大同大学 |
研究代表者 |
宮島 千代美 大同大学, 情報学部, 准教授 (90335092)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドライバ / 危険感 / 危険シーン検出 / 危険要因分析 |
研究実績の概要 |
まず,運転中に危険を感じる要因となりうる危険要因について,周辺環境要因・自車挙動要因,また静的要因・動的要因などの観点から分類し,体系化した.また,その結果に基づき,自動車学校の教習員,運転経験が20年以上の一般ドライバ,運転経験が5年未満の学生ドライバの3つのカテゴリの実験参加者について,運転シーンに対する危険感の度合いと危険要因の主観評価データを収集した.住宅街を含む一般道を走行した際に撮影した車載カメラの前方映像を10走行分用いて,その映像を見て感じた危険の度合いとその危険要因をタグ付けしてもらった.各走行映像は1走行辺り約30分で,合計5時間ほどの共通の走行映像に対して,実験参加者全員が,それぞれ感じた危険の度合いをフレーム単位で0~4の5段階で評価し,さらに危険を感じた区間に対しては,具体的に何に対して危険を感じたか,つまり危険要因の種類についてもタグ付けした.危険要因については,先ほど体系化した26種類の要因から選択できる形でタグ付けツールを作成した.また,危険度と要因のタグ付け結果に対して,各危険要因の出現頻度や,個人間の危険の感じ方の違い等を定量化した.危険感の違いの定量化には重み付けカッパ係数を用いた. 要因の出現頻度やドライバ間のカッパ係数を比較した結果,危険感は同じドライバカテゴリ内で類似し,カテゴリ間では異なる傾向にあり,一般ドライバや学生は右左折状況など自車挙動要因や壁やフェンスなどの静的周辺環境要因に対して危険を感じる度合いが比較的高いのに対して,教習員は自車挙動要因に対してほとんど危険を感じず,歩行者や自転車等の動的周辺環境要因に対して危険を感じやすいことが分かった.また,教習員は他のドライバ群に比較し,危険要因が見えていない状況にあってもその後の出現を予測して,見えていない物体であっても潜在的な危険要因として選ぶ傾向にあることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度予定していた,運転の危険感に関する周辺環境要因と自車挙動要因,および静的要因・動的要因等の分類と体系化,ドライバの危険評価データの収集,および危険感の個人性の分析を実施することができた.また,危険感のモデル化に用いる周辺環境要因の抽出方法について検討し,特徴抽出の予備実験まで行うことができた. なお,危険評価データの収集において,実験手順の説明のために多くの実験参加者と接触することは,感染の危険性が高まることから,実験参加者の人数を少し減らし,実験参加者一人当たりの実験参加時間を長くすることとした.また,感染対策を徹底するとともに,個人所有のPCでも運転の危険評価実験を行える環境を準備することで,感染の危険性を抑えてデータ収集を行うことができた. 以上のことから,研究はおおむね順調に進展しているものと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,深層学習を用いて,ドライバの感じる危険度と何に対して危険を感じたのか,つまり危険要因を推定するモデルを構築する予定である. はじめに,今年度体系化した26種類の危険要因に含まれる静的・動的な物体について,前方映像からその位置や領域の情報を深層学習を用いて抽出する.次に,抽出した特徴量を用いて,まずは危険度のみを推定するモデル,および危険要因をマルチクラス分類するモデルをそれぞれ独立で構築し,推定実験を繰り返すことで,モデルの精度を向上させる.この際,26種類の危険要因について,類似の要因を併合することで少ない危険要因クラスに要約する等の工夫をする予定である.次に,危険度推定および危険要因推定を同時に行うことができるモデルを構築し,独立で学習したモデルと推定精度について比較することによって,同時学習による効果を確認する. さらに,教習員は模範的な運転行動を行う,つまり危険要因に対して適切な認知判断を行っているもの考え,教習員の危険認知行動をモデル化し,そのモデルからの危険度・危険要因の推定結果と,他のドライバの実際の危険感の度合い・危険要因を比較し,その違いを検出する.その違いに基づいて,ドライバが普段はあまり気に留めていないが,実際は注意すべき危険要因等について,ドライバに警告するといったシステムへの応用について検討する予定である. また,周辺環境要因と自車挙動要因を入力として,危険運転を検出するモデルを構築する.運転行動信号と周辺車両等の情報をオートエンコーダを用いて信号を再構成するモデルを構築し,オートエンコーダの再構成誤差や中間層の出力として得られる特徴量から危険感を推定する実験を行い,その推定精度や有効性について,従来法との比較実験等を通じて検証する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
関連する国際会議がすべてオンライン開催もしくは延期となり,旅費の支出で差額が生じた.また,オンライン化となったことにより,予定より多くの国際会議に参加することができたが,参加費もオンライン化よって減額される場合があり,参加費による差額も生じた.来年度も積極的に多くの国際会議に参加し,研究の動向調査をする予定である. また,購入を予定していたGPUについて,今年度実施した比較的小規模の予備実験については既存の計算機でも時間は要するものの実施可能であると判断し,今後より大きな計算機パワーを必要とする本実験において用いる計算機をできるだけ最新のモデルで構成する方がよいと考え,次年度以降に購入を延期することとした.
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