本研究の目的は、特に産業現場において熱中症死傷者の減少あるいは熱中症予防という課題を解決するために、歩容分析を用いて作業者本人や管理者へ客観的な身体の変調のサインを、かつ予防的な行動を促すような形で提示することをめざし、日常および作業中の歩容分析と特徴量の解明、身体の変調を早期に検出するアルゴリズムの開発と検証、作業現場調査に基づく熱中症客観指標の提示手法の開発を行った。 COVID-19の影響により生じたヒト日常行動の変化については不明瞭だが、予備的調査により日常生活下における歩行時の歩容特徴量を得た。模擬的な室内暑熱環境下における歩行試験を実施し、心拍数等の生理指標および歩調、歩幅、加速度・角速度振幅等の歩行時特徴量を得た。波形の類似度分析等を行い、熱中症様の歩容を推定するモデルを作成した。人工気象室内での模擬作業試験を実施し、歩行を伴う暑熱環境下業務時の心拍数や体表温等の生理指標の変化、および市販の熱中症対策機器を利用した際の作業負担の軽減効果、行動変容等について評価した。産業現場ではヒアリング調査を実施し、熱中症事例や作業の見守り機器・システムの利活用に関する建設現場側からのニーズ等について調査を行った。加えて、歩容の他に候補となる作業時の見守り指標について、産業現場において小規模のトライアル試験を実施した。 2023年度は、生理指標を中心とした熱中症予防を企図したウェアラブル機器類の使われ方と課題を調査し、予防的なアラート発令後の作業手順が不明瞭であること、予防的なアラート発令の基準値がないこと、偽陽性による作業効率低下等が課題として挙げられた。
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