研究課題/領域番号 |
20K05019
|
研究機関 | 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 |
研究代表者 |
玉手 聡 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所, 労働災害調査分析センター, センター長 (10344243)
|
研究分担者 |
堀 智仁 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所, 建設安全研究グループ, 上席研究員 (20508634)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 土砂崩壊 / 計測技術 / 崩壊予測 / せん断ひずみ / 労働安全 / 避難 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、土砂崩壊の予兆を簡易に見える化する計測技術を開発することであり、ひいては掘削工事中に作業者が逃げ遅れて土砂の生き埋めとなる労働災害を防止することである。 このような事故の直接的な原因は言うまでも無く斜面が崩壊したことであるが、間接的なもう一つの原因に逃げ遅れがある。そして、この逃げ遅れの原因は、危険に気づかなかったことがあり,これは人の感覚に依存した安全には限界があることを示唆している。 そこで本研究では工事現場で簡単に利用可能な計測技術を開発し、迅速な避難を可能にすることで最終的に人への危害を防止しようとしている。具体的には、地表面から浅い部分で崩壊前に微増するせん断ひずみを表層ひずみ棒センサー(以下、「MPS」と言う)で計測し、さらに計測から警報までの処理を一元的に行う「土砂崩壊の簡易危険検出システム」(以下、「システム」と言う)を開発している。 本研究は令和2年度からスタートしたテーマであるが、初年度は先行研究において考案したMPSの基本コンセプトからその実用性能を高める検討を行った。具体的には、計測データの耐環境性能を高める改善をMPSとシステムの両方に行った。MPS側では微小な土のせん断変形を変換するがその変化自体が微小な値である。ところが屋外では電気的なノイズが混入や温度変化の影響を受けて計測精度が低下する問題が明らかとなった。この問題を解決するため、従来の電圧によるアナログ信号を、MPS内でデジタル信号に変換して通信する方式に改めてノイズの混入を無くした。加えて、システム側に温度変化によるデータ変動が少なくする回路を設計して試作した。 本研究の2年目である令和3年度には、初年度に試作したMPSとシステムの性能確認試験を行った。この試験はインキュベータ内における温度影響の確認であり、この試験に関する詳細は次の「現在までの進捗状況」で説明する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先の「研究実績の概要」に述べたとおり令和3年度は「表層ひずみ棒センサー」(以下、「MPS」という)と「土砂崩壊の簡易危険検出システム」(以下、「システム」と言う)の性能を確認するためにインキュベータ内における温度試験を行った。その結果を以下に説明する。 インキュベータとは庫内の温度を-10度から+40度までの間で任意に再現できる装置でありプログラムによって経時的な温度変化を与えることも可能なものである。その庫内にMPSとシステムの両方を設置して異なる温度環境に暴露させた。具体的には、20度を2時間、40度を2時間、そして-10度を2時間の計6時間を1サイクルとして合計4サイクル24時間で実施した。MPSは庫内で鉛直につり下げて設置することで曲げモーメントが作用しない条件とし温度変化のみを与えた。 さらにシステム側も併せて庫内に置きひずみデータを連続収録した。デジタル仕様(新型)とアナログ仕様(従来型)の両方を庫内に置いて同時収録し、データの変動幅を比較した。その結果、両システムの計測ひずみには温度変化による変動が生じる共通した現象が確認され、その変化と値に再現性が見られた。しかしながら、ひずみ値の変化幅(増分)には両仕様で大きな差が見られた。具体的には、デジタル仕様では最大温度差50度に対する換算せん断ひずみ増分は0.00958%と非常に小さな値であったのに対して、アナログ仕様では0.06443%と約7倍大きかった。したがって、デジタル化によって温度影響を約1/7に減少させることができた。 本システムは崩壊数分前に現れる危険な兆候を捉えて警報を発することを目的としたことから当初は温度変化が危険の判定に与える影響は少ないと考えていたが、施工中の長期的な変化も含めて計測したいとの希望が現場調査から明らかとなり、これに応えるための技術的な改善を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究テーマの第3年目となる令和4年度は改善したデジタル仕様のMPSとシステムの実証試験を行う計画である。この試験は室内試験と屋外試験の2つの予定であり、まず室内試験では基本的な計測性能の確認と警報性能の改善を目的に実大規模の土砂崩壊を再現する模型実験をおこなう。本実験では、アナログ仕様からデジタル仕様に変更したことによる性能的な低下や不具合などは無いか確認する。したがって、屋内試験では計測性能や情報伝達性能の課題を明らかにすることを目的とする。 次に屋外試験では同装置を現場に半年から1年程度の長期に設置して計測するものであり、研究協力者とともに実施を計画している。この試験では実際の現場における計測データの収集と本装置の耐候性やシステム的な安定性などの観点から課題の確認を目的としており、明らかとなった事項は翌令和5年度の改善テーマとする予定である。 また、開発中のデジタル仕様については研究開発と平行して実用化の検討も進めている。しかしながら、ここで近年の半導体不足の問題による影響が明らかとなった。具体的には、現システムに使用している電子部品が製品ラインナップから無くなってしまったため今後入手できなくなる可能性が生じた。この問題の解決には安定的に供給される部品を見極めたうえで設計変更する必要がある。そのための電子回路の再設計やシステムの性能確認の追加を検討している。 さらに、新型コロナの感染拡大等によって大規模な室内試験や屋外試験の実施が令和4年度で困難となった場合は方法を見直すなどして対応する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に現地参加を予定していた国際会議がリモート参加となったことから支出を予定していた旅費(海外)を2022年度に繰り越すこととしたい。この繰り越した予算は現場計測のための国内旅費として活用させて頂くとともに、先の「今後の研究の推進方策」に述べた実験装置の改善にあてるなどして有効に活用したいと考えている。
|