研究課題/領域番号 |
20K05023
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
佐藤 信也 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00300963)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 防災センサ / 歪みセンサ / 光ファイバ / ニューラルネットワーク / AI |
研究実績の概要 |
台風による土砂災害や堤防が決壊し多数の河川で氾濫が起こる等、日本は全国的に河川構造物や道路のり面及び斜面の変状に伴う多くの災害が発生している。また地震による大規模な土砂崩れによって多くの人命が奪われている。また、高速道路や鉄道のトンネル等の崩落事故も教訓に、土木・建築分野における構造物の管理の高度化による安心、安全な暮らしの実現が求められ、光ファイバセンサによる線的及び面的な歪み計測が着目されており、多くの技術開発がなされてきた。 これら防災用光ファイバセンサシステムは、光ファイバ自体をセンサとして使用しなおかつそれが低損失な信号伝送路を兼ねるため、システムをシンプルに構成できるという特徴を持つ。またガラスでできた光ファイバは金属ケーブルよりも遙かに軽量であるため、道路などが整備されていない場所に設置する際にも資材搬入等における労力が軽減され、容易に設置ができるという利点がある。 これまでに開発された光ファイバセンサ技術は実用レベルにあるものの、高コストであることや施工性および拡張性が低いという問題があり、普及レベルに達していないのが現状である。このため新技術の普及にあたり、これらの課題を解決する必要があると考えられる。 本研究は低価格で普及可能な光ファイバセンサシステムの開発を目指している。データ解析の手法としてニューラルネットワークを利用し、センサの変位と光ファイバ中を伝搬する光の各種パラメータとの関係を学習し、多点計測システムへの発展を目指す。また設置や交換における手間(コスト)の低減も図り、これまで必要が認められつつも予算がないために防災管理システムの設置が見送られていた場所にも導入され、我々が目指す安全な社会の実現への一助となることを願う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外部から加えられた歪みや力によって、光ファイバ中のレーザ光の偏光状態が定量的に変化する新しい仕組みを考案し、その実証実験を行った。今年度は円形に巻いた光ファイバを樹脂製の円筒中に納め、ピストンによって伝えられた力が円形に巻いたファイバを垂直方向に押す方向に働くセンサを考案した。 光ファイバに入射させる光は赤外線レーザダイオード(LD)を使用する。任意波形発生器により出力する光パルスの時間波形を設定し、センサとなる光ファイバを通過した後、偏光検出器に入射する。偏光検出器では入射した光をストークスパラメータ(Sパラメータ)に変換し、接続されたPCで記録する。ストークスパラメータは4つの変数(S0~S3)で構成され、偏光状態の変化によってこの4つの値が変わる。すなわち外部から加えられた力によって計測されるストークスパラメータが変化する。このパラメータの変化を、加えられた力に変換する事でセンサとして機能することが可能となる。 加えられた力に対して4つのパラメータが同時に変化するため、通常の線形的な手法では解析が困難である。そこで、記録されたストークスパラメータをニューラルネットワークの学習データとして入力しその出力から歪みを求める。4つのパラメータをそれぞれニューラルネットワークの入力層に入れ、出力層は求めたい変位として学習を行った。ニューラルネットワークの中間層の数、中間層の素子数、活性化関数等は利用するシステムにより最適値が異なるため、出力の誤差が最小になるようにそれぞれ決定を行った。 本年度は平均誤差が約2.9%の精度で、測定したストークスパラメータから加えられた力(ピストンの変位)を求めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで,光ファイバ中の偏光の変化を検出する手法の振動センサなどは開発されているが、偏光の変化から光ファイバに加わる歪みを定量的に測定する技術は皆無である。光ファイバに歪みが加えられたときに、ファイバ中を通る光の偏光の変化を歪み量に換算するセンサの開発を引き続き行う。次年度以降はセンサを複数個縦列に接続することによって、広範囲の測定を試みる。この方法は偏光測定器で得られるストークスパラメータから歪み量を算出するため、測定経路における光のパワーのロスが測定に影響を与えないのが最大の特徴である。そのためセンサを複数縦続接続する際にも融着接続を行う必要が無く、コネクタ接続で良いため、設置および修復時における施工性が大幅に向上でき、またセンシング範囲を拡張することも容易に行える。 また、光ファイバブラッググレーティング(FBG)を用いたセンサにも、ニューラルネットワークを応用していく。現在実用化されているFBGを利用した歪みセンサは広帯域光源と光スペクトラムアナライザを利用したシステムがほとんどである。光スペクトラムアナライザは1台数百万円と非常に高価であり、これが普及を妨げる要因となっている。FBGセンサシステムのコストを下げ、より広範囲に普及を図るために光スペクトラムアナライザを使用しないFBGセンサシステムにニューラルネットワークを組み合わせて、複数のセンサを縦続接続した歪み計測システムを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による緊急事態宣言の発令により部材調達がスムーズに行かなかったため計画を変更し、ファイバに加える変位を正確に評価するためのセンサヘッドを購入したために差額が生じておりますが、研究全体の進捗に変化・影響はありません。
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