研究課題/領域番号 |
20K05024
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
大場 司 秋田大学, 国際資源学研究科, 教授 (10272014)
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研究分担者 |
高橋 亮平 秋田大学, 国際資源学研究科, 准教授 (10396286)
井村 匠 山形大学, 理学部, 助教 (20878524)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水蒸気噴火 / 火山灰 / 蔵王火山 / 鳥海火山 / 吾妻火山 |
研究実績の概要 |
本研究は水蒸気噴火等の突発的火山噴火について,その火山灰を物質化学的に分析することによって噴火発生条件、発生過程,マグマの挙動と噴火への関与を解析し,噴火推移予測の精度を向上させることを目指している。令和2年度は,蔵王・鳥海・吾妻の各火山を中心に現地調査・火山灰分析・データ解析を行った。蔵王火山では,歴史時代噴火に対比される複数の火山灰層を採取し,火山灰の形態分析等,顕微鏡・SEM-EDS微小分析に基づく物質科学分析を行うとともに,とくに明治時代(1894-1895年)噴火に焦点を当てて硫黄同位体組成分析を行った。この同位体分析結果は,本研究の主題となる伏在マグマの挙動を顕著に表している値であるものと見込まれ,現在データの意味について詳細に解析している。鳥海火山については,層序の確立から調査を始め,火山灰構成粒子を詳細に顕微鏡的に同定し,その生成過程を考察した。吾妻火山では,室町時代以降の噴火について,火山灰の岩石学的特徴を基に,熱水系の進化過程とマグマ貫入史との関連性を解明した。これらの火山における火山灰調査と同時進行で,水蒸気噴火の発生機構に関する一般的考察を行い,モデル化を行った。これにより,水蒸気噴火発生機構に関する一般的な従来の考え方を大きく変更するとともに,モデルの提唱とその体系化に成功した。吾妻山の成果については査読付き国際誌(Journal of volcanology and geothermal research),水蒸気噴火発生機構については査読付き和文誌(地学雑誌)に成果を投稿し,いずれも受理されて掲載が決定している。鳥海山と蔵王火山の成果については,一部を学会講演にて公開(令和2年度日本火山学会秋季大会)するとともに,令和3年度中での査読付論文成果公表に向けて分析データを蓄積・解析している。鳥海火山の成果については論文執筆を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究での実施内容は,国内外の火山での現地調査と試料採取,試料の岩石学的調査,試料の同位体分析,それにデータ解析である。採取試料を材料とする研究であるために,現地調査・試料採取が研究の出発点となる。ところが当初は初年度から海外での現地調査を含む計画であったため,新型コロナウイルス感染症の影響により当初の計画からは大幅にフィールドを変更せざるを得なかった。海外での調査を令和3年度以降に延期することとした。国内移動についても各機関で制限されたために,この制限に応じた調査対象火山の見直しを行った。特に代表者・分担者の機関がある秋田・山形県に近い範囲でも,鳥海火山,蔵王火山,吾妻火山等を当面の調査対象とすることで目的が達成されると見込み,調査を実施している。これにより,研究開始点となる現地調査と試料採取は,初年度としては十分な成果が得られた。更に,これらの試料を用いた調査も進行している。鳥海山,吾妻火山では,山灰の岩石学的分析を進めている。とりわけ吾妻火山の火山灰については,火山下熱水系の進化とそれに関わったマグマの挙動について一定の知見が得られたため,成果をとりまとめて国際的な査読付き学術誌(Journal of Volcanology and Geothermal Research)に投稿し,令和3年5月時点で掲載が決定している。この研究により伏在マグマの挙動がある程度検知できることが示された。また,蔵王火山については硫黄同位体分析を実施し,予想以上に興味深いデータが得られている。鳥海火山の火山灰については吾妻火山と同様の岩石学的調査を実施しており,熱水系の発達やマグマの関与の状況が徐々に解明している。鳥海火山については吾妻火山とは更に異なった成果が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
2020年までに調査を実施し,現存する火山噴出物採取試料については,岩石学・地球化学的分析を継続する。吾妻火山,鳥海山の試料についても,これまで未実施である硫黄同位体組成分析を行う。蔵王火山では明治時代噴火の硫黄同位体分析が分析実施済みであるが,それよりも古い江戸時代噴火については未分析であるため,これらの試料についても移動同位体分析を行う。また,岩石学的調査が完了していない試料も多数あるため,顕微鏡・SEM-EDS等による観察・分析を継続して実施する。火山による違いのみならず,噴火毎に多様性が認められ,わずか三火山であるが,分析を継続することで,より新たな知見が得られると期待される。一方,別の火山における調査・分析も計画している。今後は,草津白根山2018年噴火など,国内での近年の噴火による火山灰を採取(入手)し,鳥海火山・蔵王火山・吾妻火山と同様に,火山灰の岩石学的調査及び地球化学(硫黄同位体)調査を実施する。2021年度前半は移動制限が厳しいため,秋田・岩手県境に位置する栗駒山火山の1944年噴火の噴出物についても注目することとする。その後は,ワクチンの普及により新型コロナウイルス感染症による移動制限が今後軽減されると見越し,本年度後半,遅くとも最終年度の来年度前半には,インドネシアタンクバンパラフ火山,ロコン火山等についても現地調査・試料採取を実施する。これらの火山を調査する必要性として,それぞれ2019年および2013年に水蒸気噴火およびブルカノ式噴火が発生しているため,観測が十分行われている噴火による新鮮な火山噴出物が得られることである。特にロコン火山の噴火は,浅間火山等,日本でも限られた火山でのみ発生するタイプの噴火(しかし国内火山での採取は困難)であるため,新たな知見が得られるものと期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度である令和2年度に計画していた海外および国内遠方での調査が新型コロナウイルス感染症による移動制限のため,令和3年度(もしくは4年度)に延期することとなった。当該年度は近隣での調査・試料採取および現有試料の分析調査を実施した。令和2年度に計画していた海外・国内遠方への旅費を令和3年度に計上し,令和3年度中に現地調査・試料採取を実施する計画である。
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