静止気象衛星「ひまわり8号」による高頻度観測を活用して、積乱雲の発生・発達過程の統計的特徴をもとに地上の降雨開始を予測する経験的手法を開発し、社会の豪雨への適応に資することを目的とした研究を行った。 まず,降雨発生前のひまわり8号輝度温度の時系列解析を実施した。気象レーダ観測を用いて各地点での地上降雨開始時刻を定義し、いくつかの事例について降雨開始前の輝度温度の時間変化にみられる特徴を調べた。その結果、輝度温度は降雨開始の15分程度前から低下しており、積乱雲の発生・発達を適切に捉えていることが示唆された。従来の静止気象衛星による輝度温度観測は30分または1時間間隔であったため、このような成長過程を捉えることができなかったが、最新の静止衛星高頻度観測が地上降雨の開始を気象レーダより15分以上早く予測できる可能性を示している。 さらに,降雨開始時の地表降雨強度の量的予測の可能性を探るため、積乱雲の発達速度の統計的特徴について調査を行った。降雨開始時間以前の輝度温度の時間変化について調べた結果、すべての事例において降雨開始以前に輝度温度が低下することが確認された。降雨開始までの輝度温度の時間変化はおよそ4通りの傾向を示すことが分かった。4通りの傾向のうち、輝度温度が降雨開始30分以内に低下する事例には、孤立して発達する雲が多く捉えられていた。輝度温度変化率の時間変化に見られる特徴も用いることにより、孤立性降雨と移動性降雨が効率よく判別できる可能性が示された。降雨開始時の降雨強度と、降雨開始以前の輝度温度と輝度温度変化率がどのように関係しているのかについて、降雨強度別に調べた。降雨開始の約20分前から、降雨開始時の降雨強度が強いほど輝度温度変化率が負に大きい、すなわち雲の発達が大きいことが示された。
|