研究課題/領域番号 |
20K05031
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
有馬 昌宏 兵庫県立大学, 応用情報科学研究科, 名誉教授 (00151184)
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研究分担者 |
川向 肇 兵庫県立大学, 応用情報科学研究科, 准教授 (30234123)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ソフト防災 / 防災情報 / 情報品質 / 防災アプリ / 減災カルテ・処方箋 / 自主防災組織 / ハザードマップ / 人的災害危険性マップ |
研究実績の概要 |
研究初年度の取組として、防災情報の「情報品質(Information Quality)」を高めて避難行動に基づく「ソフト防災」を有効に機能させるための方策の検討を行った。方策の検討にあたり、災害を、1)発生形態で①進行型(事前に予報可能な河川氾濫、内水氾濫、土砂災害など)と②突発型(地震、竜巻など)の2分類に、2)発生場所で①危険箇所判別可能型(ハザードマップで被害想定可能な水害や土砂災害)と②危険箇所判別不能型の2分類に、3)避難主体で①個人、②世帯、③近隣地域(町内会、自主防災会など)、④事業所・学校などの団体の4分類に、4)所在地で①自宅、②勤務・通学先、③その他外出先の3分類に、5)対応期間で①直近、②短期、③中・長期の3分類に分類し、それぞれにどのような防災対策があるかを整理し、それぞれの有効性について検討した。 その結果、ソフト防災を有効に機能させるためには、中・長期的には危険地域への立地制限と危険地域からの移転促進、直近ならびに短期的には自宅や通勤・通学先などの災害種別に応じた危険の有無の正しい認識と危険な場合の避難行動の想定、危険がない場合でも生活に必須のインフラ(いわゆるライフライン)が機能しない場合に避難所に行かなくても在宅避難が可能なような備えが重要であることなどを再確認し、次年度の研究につなげるための基礎となる災害種別ごとの防災対策、防災に関する法律や条例などに基づく規制や助成などの制度、自主防災組織や防災意識などに関する既存の社会調査結果の収集と整理などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、協力が得られる自治体あるいは自主防災組織や学校での「減災カルテ・処方箋」の作成、および防災訓練時に開発済みの防災アプリ(「ハザードチェッカー」)ならびに安否確認用情報システムを使用して避難訓練や安否確認訓練を実施し、アンケート調査やヒアリング調査に基づいて、本研究で提案する「減災カルテ・処方箋」の有効性の検証とアプリおよび情報システムの改良に向けての情報の獲得を行うとしていた。 しかし、2020年1月末から新型コロナウィルスの感染拡大が始まり、感染拡大防止のために集会やイベントが中止や延期を余儀なくされ、地域や学校・事業所などの団体での避難訓練は実施が見送られ、ヒアリング調査の実施もままならない状況となった。そのような中で、実質的な実証に向けた研究は、本研究開始以前から共同研究を進めていたKDDI株式会社の協力のもとでの従業員向け防災手帳ならびにビデオレターでの防災アプリ「ハザードチェッカー」および「減災カルテ・処方箋」の紹介、また感染拡大が収まったかのように見えた2020年9月に姫路西ロータリークラブの例会においての「ハザードチェッカー」および「減災カルテ・処方箋」の紹介と評価のためのアンケート調査の実施ができたのみであった。 本研究開始直前の2020年1月から2月にかけて、別の科学研究費補助金による研究の中で全国1,741の基礎自治体にアンケート調査を行う機会があり、その調査の中で基礎自治体の危機管理・防災担当部局に対して防災アプリ「ハザードチェッカー」を利用した防災訓練の実施の可能性を打診したが、新型コロナウィルス感染拡大防止が喫緊の課題となり始めていた時期と重なり、協力を申し出る自治体はなかったことも研究計画の進行が遅れた原因となっている。 以上から、主として文献調査に依存する研究のみが進行する結果となり、実証分析に向けての準備がほとんど行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、研究の2年目では、初年度の研究成果を踏まえて、10,000人規模の全国ウェブ調査を実施して、素因情報の提供源であるハザードマップの認知度、閲覧実績、素因の有無および内容の認識の正確さを検証することとしている。また、防災アプリや安否確認情報システムの利用可能性や使いやすさの評価を、想定できる機能を装備した架空のアプリの画面例を示すなどして、その利用可能性と有用性を問う選択実験や、洪水や高潮や津波や土砂災害や地震の被害に遭わないためには年間にいくらまで支出してもよいかを仮想的に問う仮想市場法などの定量化手法を適用して把握し、火災保険や地震保険への加入状況の把握とともに、自主防災組織への認知・関心・参加の実態を定量的に明らかにすることを予定している。加えて、ICTによる自主防災組織への支援を仮想的に示して、ICTによる支援がある場合の自主防災組織への関心・参加意識の変化や役割分担の受け入れの可能性を明らかにして、自主防災組織の活性化や機能化に向けて、ICTの利活用による可能性を示すこととしている。 新型コロナウィルス感染拡大防止のための諸施策やそれらに基づく自治会・町内会・マンション管理組合・自主防災組織等の住民組織や学校・事業所等による集会・イベントの自粛のために、初年度のヒアリング調査や防災訓練等に参加しての研究は行えていないが、ウェブ調査であれば実施が可能であるので、今後も、本研究の研究計画に従って、まずはウェブ調査を行えるように調査票の設計に注力して、本年度中にウェブ調査を実施できるように準備を進めていきたい。 また、新型コロナワクチンの接種が進めば、防災訓練や防災のための勉強会なども可能になると考えられるので、本年度の後半には、前年度にできなかった住民組織や自治体や企業・学校を対象としたヒアリング調査も実施できればと実施していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響を受けて、全国の自治体、自主防災組織、学校、事業所等で実施される防災訓練や防災学習への参画を通じてのヒアリング調査や防災アプリおよび減災カルテ・処方箋などの開発している防災ツールの紹介ならびに簡単な評価のための質問紙調査やヒアリング調査が全くできず、旅費の執行が全くなかった。さらに、防災訓練や防災勉強会でのアンケート調査も実施できなかったために、データ入力費の執行がなく、「減災カルテ・処方箋」および記入マニュアルの印刷費も、用意すべき部数が少なく、印刷会社に外注するまでもなく、保有のカラープリンタでの印刷で対応することができたことで、印刷経費の執行もなかった。また、研究発表や情報収集のための学会参加もオンライン大会のために、研究分担者との対面での打ち合わせが必要な場合の旅費以外に、旅費の使用が全くなかった。 以上から次年度使用額が大きな金額となったが、本年度の後半には新型コロナワクチンの接種率の向上で防災訓練や防災勉強会も可能になると思われるので、本来の使用予定に基づき、1年遅れではあるが、旅費や人件費・その他の経費を執行予定である。 また、ウェブ調査については、10,000人規模を想定しているが、選択実験や仮想市場法などの回答が面倒な質問項目が含まれる予定なので、調査経費を上積みさせて、有効回答率が高まるように対応することにしたい。
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