研究課題/領域番号 |
20K05036
|
研究機関 | 東京都立産業技術高等専門学校 |
研究代表者 |
宮川 睦巳 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 准教授 (90469578)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 応力発光体 / 破壊発光 / 累積外力 / 損傷度評 / コンクリート一軸圧縮試験 / ヒストグラム / CNN技術 |
研究実績の概要 |
高度経済成長期以降に膨大に敷設されたコンクリート構造物を主とする現在のインフラ設備は,老朽化や大型台風などの自然災害の増加によって,同時多発的に異常な外力に曝されており問題視されている.そのような被災構造物の深刻な損傷を災害直後に短時間で把握し,健全性を評価することは都市機能を維持するうえで急務な課題である.しかしながら,災害直後に構造物に累積した外力の程度を一挙に把握することは困難である.ここで求められているのは,受けた累積外力の程度を迅速かつ簡易的に測定し,構造物に加わるエネルギーと損傷の関係性を即時に評価することにある.このため,膨大な数のコンクリート構造物のレジリエンス強化に貢献するような評価方法を確立し,新たな防災技術を開発することが望まれている. この目的のため,本研究では引張・圧縮などの機械的外力を加えることで生じた応力集中により発光する性質を持つ応力発光体(Mechanoluminescence以降,MLと称す)を用いことで,構造物が受ける累積外力を簡易的かつ広範囲に測定し,構造物の損傷度を評価するための手法の開発を目指したものである.これによりインフラ設備の長寿命化やLCC(Life CycleCost)抑制に貢献ができると考える.これまでの研究成果として, 【成果1】MLを塗布したコンクリート供試体に一軸圧縮試験を行い,初期段階の微小な破壊から,最終的な破壊に至るまでの破壊発光を観察し,ヒストグラム(横軸に発光輝度,縦軸にピクセル数)を作成することで瞬間発光エネルギーと累積発光エネルギーの算出を行い,損傷と破壊発光との関係性を提示した. 【成果2】コンクリート供試体の破壊発光から,損傷度(Damege Level)を4段階に分類し,これを教師データとすることでAI(DeeplearningによるCNN技術)を用いた画像分類による損傷度評価を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍による納品の遅れ,休校や在宅勤務など様々な制約があったため,当初の予定と比べて実験数が不足していることは否めない.しかし,可能な限り実験内容を見直し,集中と選択により実験回数を絞ることで限りある実験データを有効に活用している. 工夫例として,一軸圧縮試験によるコンクリート供試体の破壊発光を観察する際に,防犯カメラを複数台設置することで「異なる映像の破壊発光」を取得することができ,1回の実験から複数の実験データを得ることができている.また,現時点で得られている研究成果において,コンクリートの破壊発光からヒストグラムを作成し,このデータから瞬間発光エネルギーと累積発光エネルギーの算出を行い,損傷と破壊発光との関係性を提示した.このことは,今後の研究発展につながる大きな成果である. また,CNN技術を用いた画像分類による損傷度の評価については,研究協力企業とおおむ順調に進んでいる.一軸圧縮試験によるコンクリート供試体の破壊発光から,損傷度(Damege Level)を4段階に分類し,CNN技術を用いた画像分類による損傷度の評価解析が行えている.これら,成果1,成果2の可能性を見いだし,より信頼性を高めるための実験データについては今後の課題とする.
|
今後の研究の推進方策 |
現在のコロナ禍による状況は,今後数年間は変化ないものとして対応を検討しなければならないと考えている.しかし,実験が完全に停止しているわけではないため,引き続きコロナ対策を実施し,実験内容を精査し,工夫することで実験回数を減らした上で限りあるデータを有効に活用する予定である. コンクリート供試体の損傷と破壊発光との関係性を見いだす研究については,動画データを静止画に分割し,ヒストグラムを作成しながら,発光エネルギーを算出するというプロセスにおいて,数種類の解析ソフトを用いている.このため現時点では一連の作業を体系的に算出することができておらず,破壊発光エネルギーと損傷の関係性を表すグラフの作成に時間を要している.このため,まずはこれらシステムを構築し,作業の効率化を図る. CNN技術を用いて破壊発光から損傷箇所および損傷度を評価する研究については,教師データの数と正答率(精度)によって導き出される正答率が変わってくる.現段階で得られている研究成果では,画像分類機能を用いた損傷度分類はおよそ200枚の画像データから推察することができている.しかし,物体検知(損傷検知)機能による損傷位置と損傷度分類となれば,およそ2000枚のアノテーション作業(損傷箇所を特定し,マークする作業)が必要となる.現段階では実験データが少ないため,損傷検知のためのアノテーション作業が行えていない.このため,複数台のカメラをより多方面から設置し,より多くのデータを得られるように検討している.
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた学会および研究会活動がほぼ全て中止となったため. 今年度も引き続き状況は変わらないと思われるが,学会活動はできるだけ現地に赴き情報収集を行いたいと考えている.
|