研究課題
我が国は沿岸部に人口が密集しており,水災害の頻度や規模に関する将来予測技術を高度化することは,沿岸低地における防災対策を進める上で重要な課題といえる.北東北日本海沿岸地域では,古文書等による災害記録に乏しいため,過去の大規模な津波や洪水といった将来予測に資する情報が不足している.本研究では,北東北日本海沿岸低地において津波および洪水堆積物に関する地質調査を実施し,それらの形成年代やより詳細な空間的分布範囲を明らかにすることによって,過去に発生してきた津波および洪水の頻度や規模を推定することを目的とする.2022年度は,秋田県男鹿市,にかほ市象潟および仁賀保の沖積低地において津波堆積物と洪水堆積物に関する現地調査をおこなった.現地では長さ2m程度の堆積物試料を約70カ所で採取し,その粒度,堆積構造,含まれる化石,地層の境界面の形状などに基づいて,それぞれの地点における堆積環境を推定した.その結果,過去の津波および洪水によって形成されたと推定されるイベント堆積物がそれぞれの地域の沖積層からみいだされ,それらの平面的な分布様式に関する情報を得た.これらイベント堆積物の堆積構造について,X線CT画像を用いて詳細に観察し,津波堆積物と洪水堆積物の内部構造についてそれぞれの特徴を検討した.また,本研究による津波堆積物の広域的な分布について明らかにするため,山形県飛島にて津波堆積物の可能性があると報告されている礫質堆積層の層相や内包物などに関する予察的な現地調査をおこない,その津波堆積物の可能性について検討した.2022年8月には調査地域の一部である青森県鰺ヶ沢町にて洪水が発生したため,現地調査をおこない洪水による浸水深と残された堆積物の堆積厚に関して検討した.この調査結果は,地層に残された洪水堆積物を評価する際に有用な情報と考える.
2: おおむね順調に進展している
2022年度は秋田県内の3地域および山形県内の1地域で地質調査を実施し,そこから津波堆積物および洪水堆積物と推定される堆積物を識別した.また,次年度に実施を計画している調査地域についても下見等をおこない,調査実施の目処をつけた.年代測定や微化石分析などの進捗が遅れ気味ではあるが,本研究課題全体のスケジュールとしては,ほぼ計画どおりの進捗と考える.
2023年度は,昨年度までに採取してきた試料について放射性炭素年代測定,粒度分析,微化石分析やX線CT撮影措置を用いた解析等をおこなう予定である.当初の計画どおり,昨年度までに主要な現地調査はほぼ完了させたが,今年度も秋田県にて補完調査を実施する.調査と並行して青森県,秋田県周辺における津波堆積物や洪水堆積物の時間的,空間的分布から,日本海北部の沿岸低地における大規模な津波や洪水等水災害につながる事象の発生時期や履歴および浸水範囲について検討,評価していく.また,研究成果を取りまとめると共に,社会への還元にも取り組む予定である.
当該年度に予定していた外注による分析費が生じなかったため,次年度使用額が生じた.予定していたすべての分析を2023年度に実施するため,2023年度分の助成金と合わせて使用する予定である.
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Marine Geology
巻: 453 ページ: -
10.1016/j.margeo.2022.106905