研究課題/領域番号 |
20K05051
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大場 武 東海大学, 理学部, 教授 (60203915)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水蒸気噴火 / 火山ガス / 化学組成 / 連続観測 |
研究実績の概要 |
2020年度は,霧島硫黄山の火山ガスについて注目すべき成果が得られた。霧島硫黄山では,2015年から火山性の地震活動が活発化し,同年12月末に山頂付近で噴気の新規出現が観測された。それ以来,筆者は2020年11月まで繰り返し噴気の採取・分析を行った。2015年から現在までの期間で,二回の大きな組成変動が観測された。最初の組成変動は2017年5月に観測された。この時期に,極めて噴出圧力が強い噴気が出現し,霧島硫黄山ではいわゆる噴火未遂が起きたと考えられている。次の大きな組成変動は,2018年4月の水蒸気噴火の直前である2018年3月に起きた。この二つの期間で観測された組成変動は,SO2とH2の濃度増加で特徴付けられる。水蒸気噴火のポテンシャルが高い箱根山や草津白根山では,CO2/H2S比が地震回数と相関して上昇するパラメータとされているが,霧島硫黄山ではCO2/H2S比の変動は地震回数と相関しなかった。霧島硫黄山,箱根山,草津白根山は水蒸気噴火を起こすという共通の性質を有するが,これらの火山の間で,火山ガス組成変化に大きな相違があることは,今後の火山噴火予知研究において重要な発見と言える。霧島硫黄山では,火山ガス化学組成と並行して,安定同位体比も継続して分析された。噴気のH2O安定同位体比は,2018年4月の水蒸気噴火の直前である2018年3月頃に最も高くなり,その際にマグマ起源水蒸気の寄与は最大で51%に達したと推定される。本研究において化学組成に加えて,安定同位体比も火山噴火予知に有用な指標となりうることが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の初頭に,連続自動観測装置の開発を目指し,箱根山大涌谷でガスセンサーによるCO2,H2Sガスの予備的な測定実験を行った。その結果,CO2,H2Sガスセンサーが結露しないようにするためには,火山ガスが放出される噴気孔から4m以上離れた場所で大気中の濃度を測定する必要があると結論された。しかし,この条件では,火山ガスは大量の大気による希釈されており,特にCO2については,大気バックグランドが400ppm程度あるため,火山ガスに由来するCO2を正確に測定することが不可能であった。火山ガスのCO2/H2S比を正確にガスセンサーで測定するには,噴気孔から直接ガスを採取し,水蒸気をほぼ完全に除去する必要がある。火山ガスから水蒸気を除去する装置の開発が研究を成功させるために必須である。
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今後の研究の推進方策 |
箱根山では,火山ガスに含まれるマグマ起源成分と起源の異なる熱水系成分に着目すると,これらの成分比の変動が地震活動に関連しているとされている。現状で,箱根山の噴気の観測頻度は高々一月に一回であり,本研究では火山ガス自動観測装置の開発により,成分比観測の時間密度を向上させたい。箱根山の火山ガスは金属を腐食するH2Sガスを含み,電子機器を故障させる。この問題は深刻で解決は容易でない。箱根山の火山ガスはまた,水蒸気に富んでいる。CO2やH2Sのガスセンサーは,測定条件として結露が起きないことが要求され,連続自動観測を実現するには,試料ガスに含まれる大部分の水蒸気を除去する装置の新規開発が必要である。 火山活動は常に継続しており,自動観測装置の完成を待ってくれない。また数値化できない情報が火山活動の現場に存在するため,研究者が現地に赴き実際に地熱地帯の様子を観察することは重要である。本年度も毎月,箱根山の現地調査を欠かさず実施する。また,箱根山以外で水蒸気噴火のポテンシャルが高い草津白根山や霧島硫黄山でも現地調査を実施し,連続観測の可能性を探る。本研究の研究成果は日本火山学会等で発表し,研究論文を国際学術誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の初頭に,連続自動観測装置の開発を目指し,箱根山大涌谷でガスセンサーによるCO2,H2Sガスの予備的な測定実験を行った。その結果,CO2,H2Sガスセンサーが結露しないようにするためには,火山ガスが放出される噴気孔から4m以上離れた場所で大気中の濃度を測定する必要があると結論された。しかし,この条件では,火山ガスは大量の大気による希釈されており,特にCO2については,大気バックグランドが400ppm程度あるため,火山ガスに由来するCO2を正確に測定することが不可能であった。火山ガスのCO2/H2S比を正確にガスセンサーで測定するには,噴気孔から直接ガスを採取し,水蒸気をほぼ完全に除去する必要がある。水蒸気の除去装置は2020年度以内に開発する目途が立たず,2021年度に延期することにした。そのため,連続観測装置の開発に必要な使用額が使われず,次年度使用額が生じた。2021年度と2022年度に渡り,水蒸気の除去装置の開発を行い,CO2/H2S比を連続観測する装置の完成を目指す。
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