研究課題/領域番号 |
20K05051
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大場 武 東海大学, 理学部, 教授 (60203915)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水蒸気噴火 / 火山ガス / 化学組成 |
研究実績の概要 |
箱根山では、2021年の7月から8月にかけて噴気のHe/CH4比が上昇する変化が観測された。この変化は2019年に起きた同様の変化に比べて変動幅が小さく、それに対応し火山性地震の発生回数は少なく、気象庁は噴火警戒レベルを1に維持した。噴気のHe/CH4比は火山活動に極めて敏感に反応する指標であることが証明された。噴気のCO2/H2S比も同様に2021年の7月から8月にかけて上昇したが、上昇の幅はわずかであった。CO2/H2S比の上昇速度(上昇率)を、2015、2017、2019、2021年の活動期で求めたところ、活動期の地震回数と良い相関があることが判明した。CO2/H2S比の上昇速度は活動期の初期に求めることができるので、火山活動の推移を予測する上で貴重な情報となり得る。草津白根山では、2021年度は、4月、8月、10月に噴気の採取分析を実施した。CO2/H2S比やHe/H2S比は4月から8月にかけてわずかに上昇したが10月に減少し、ほぼ4月の値に復帰した。浅部熱水系に対するマグマ起源成分の流量は中程度の規模を維持していると推定される。これに対応し、火山性地震は毎月50~100回程度の発生が観測された。えびの高原硫黄山では2021年度は6月と12月に噴気の採取分析を実施した。かつて非常に強い圧力で噴出していた噴気hに含まれるH2Oの酸素同位体比は、6月から12月にかけて-5から-1パーミルに大幅に上昇した。この上昇は、噴気に対しマグマ起源のH2Oの寄与が増大したことを意味する。火山活動が6月から12月にかけて活発化していないことを考慮すると、酸素同位体比の上昇は、マグマ起源のH2O流量増加が原因ではなく、天水起源地下水の影響が低下したために生じたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度を通じて,連続自動観測装置の開発を目指し,箱根山大涌谷でガスセンサーによるCO2,H2Sガスの測定実験を行った。2021年度はソーラーパネルを設置し、装置の稼働に必要な電力を供給するシステムを構築した。また十分なCO2とH2Sの濃度を確保するために、噴気孔に直接ステンレス製の覆いをかぶせ、それにステンレス製のパイプを接続した。噴気はステンレス製のパイプを通過する間に空冷され、部分的に水蒸気を凝縮させることに成功した。これらの対策により、11月には約2週間に渡り、噴気のCO2/H2S比を毎日取得することができた。しかし、装置を設置している場所が急な斜面のために、崩落する石などによりパイプが破壊されるなどの事故や、不十分な水蒸気の除去によるガスセンサーの結露により、2週間以上の連続観測には成功していない。
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今後の研究の推進方策 |
箱根山では,噴気に含まれるCO2やHeなどのマグマ起源成分と、H2SやCH4などの熱水系起源成分に着目すると,これらの成分比の変動は地震活動に密接に関連している。現状で,箱根山の噴気の観測頻度は高々一月に一回であり,本研究の期間内に火山ガス自動観測装置を完成させCO2/H2S比観測の時間密度を1日当たり1回以上に向上させたい。箱根山の火山ガスは金属を腐食するH2Sガスを含み,結露が起きるとセンサーが故障する。この問題は深刻で解決は容易でない。一般に噴気は90%以上の水蒸気を含んでいる。CO2やH2Sのガスセンサーは,測定条件として結露が起きないことが要求され,連続自動観測を実現するには,試料ガスに含まれる大部分の水蒸気を除去する性能を向上させる必要がある。火山活動は常に継続しており,ガスセンサーでは観測できない項目が多数ある。それらは、火山活動を評価する上で貴重な情報である。依然として現地に赴き実際に地熱地帯の様子を観察し、試料を採取することが重要である。本年度も毎月,箱根山の現地調査を欠かさず実施する。また,箱根山以外で水蒸気噴火のポテンシャルが高い草津白根山やえびの高原硫黄山でも現地調査を実施する。本研究の研究成果は日本火山学会等で発表し,研究論文を国際学術誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に,連続自動観測装置の試作機を箱根山大涌谷に設置し、CO2/H2S比の連続観測を試みた、最長で2週間程度の連続観測に成功した。しかし、装置の設置場所が斜面であるため、常に落石の影響を受け、装置の故障などが起きた。また、噴気に含まれる水蒸気の除去性能が十分ではなく、CO2,H2Sガスセンサーが結露し断線する障害があった。水蒸気の除去は困難な課題であり、2021年度以内により高い性能の装置を開発する目途が立たず,2022年度に延期することにした。そのため,連続観測装置の開発に必要な使用額が使われず,次年度使用額が生じた.最終年度の2022年度は,水蒸気の除去性能を向上させCO2/H2S比を長期間連続観測する装置の完成を目指す。
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