箱根山では,2015年に小規模な水蒸気噴火が発生しており,その原因として浅部熱水系に対するマグマ起源成分の流量増加が推定されている。箱根山では2019年5月頃に再び火山活動が活発化した。2019年の活発化の後、噴気のCO2/H2S比やHe/CH4比は低下傾向が続き、2021年5~6月頃に極小値に至った。その直後、2021年7月から8月にかけて大涌谷の2015年火口に近接する噴気で、CO2/H2S比やHe/CH4比の急激な上昇が観測された。しかし、2021年9月以降,これらの比の上昇傾向は維持されず、火山性地震の回数もわずかに増加したに過ぎなかった。2022年に入ると,CO2/H2S比やHe/CH4比はさらに低下し2023年3月時点で低いレベルに落ち着いている。2021年以来の観測により、噴気の化学組成は,火山性地震回数が顕著に増加しないような浅部熱水系のわずかな変化を敏感に反映することが示されたと考えられる。 箱根山大涌谷で、噴気の化学組成比(CO2/H2S比)を自動観測する実験を行った。2022年度は箱根山において噴気孔から放出される噴気を全長2~3mのパイプを通すことにより自然冷却し、噴気に含まれる水分を除去してからガスセンサーに導入するシステムを試験的に運用した。その結果、2023年2月14日から2週間に渡り噴気のCO2/H2S比を連続的に観測することに成功した。観測されたCO2/H2S比は直接採取法で分析された値に近く,ガスセンサーによる組成比観測の妥当性が確認された。問題点としては,水分を除去した火山ガスと環境大気の混合率が変動し,火山ガスの濃度が低下した時に測定精度が影響されることが挙げられる。この問題点を克服するために,火山ガス濃度を安定化させるようにシステムを改良する必要がある。
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