研究課題/領域番号 |
20K05058
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
榎木 勝徳 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60622595)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / クラスターサイエンス / i-s 相互作用 / ハード磁石材料 |
研究実績の概要 |
本研究では、高い特性を担う磁性材料の開発を目的として、第一原理計算に基づく原子スケールでの組織予測とその結晶構造から予測される物性値をもとに材料探索を行う。
フェライト鉄中に溶質原子からなる特異な溶質原子ナノクラスターが生成する可能性がある添加元素の選別を進めてきた。特に周期律表において Fe よりも小さな族の遷移金属元素は窒素の近傍に存在する傾向が強く、またそれらがつくるクラスターは層状の形状をもつ傾向があることが明らかとなった。2020 年度は置換型溶質原子と窒素との実効的な相互作用を評価する手法の開発も進めた。具体的んには化学ポテンシャル法に基づくモンテカルロ法を利用して、拡散対実験を模倣した組織シミュレーションを行い、置換型原子を含む系と含まない系との平衡窒素濃度を評価することで、置換型溶質原子と窒素の相互作用の導出を行った。それらの結果は実験により推定されている相互作用をよく再現する結果となった。さらに板状のクラスターを形成する Fe-M-N 三元系では、共通して Fe2MN 組成の層状化合物が準安定基底状態として存在することを見出した。 2021年度は、計算から選別した合金候補に対して、ボールミルによる試料作成を実施した。ひずみを持った BCC 過飽和固溶体の合金粉末を得ることができ、さらにそれらを時効して溶質原子を拡散させた。時効温度/時間に対して、過飽和固溶体から準安定窒化物が生成する結果が得られた。 さらに、本計算手法を応用して、Fe中の固溶元素からクラスタリングを介して炭化物やホウ化物が形成する可能性を見出すことができ、本研究手法を基礎として新たな展開が見出された。金属学会および鉄鋼協会にそれらの成果を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所属している研究グループの教授が退官した。そのため研究設備の変化があり、それらの環境整備に時間を要した。しかし、実験及び計算環境はほぼ整えることができ、年度後半では順調に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きボールミルによる試料合成と計算からの予測を進めていく。特に本年度は時効時間・温度依存性から動力学的なクラスター生成過程を考察できる実験データを獲得したい。また、本研究を基礎として溶質原子クラスターを核とした析出物の計算からの予測できる新しい展開が見えてきた。ニューラルネットワークポテンシャルを用いた計算のようにクラスター展開法を超える計算手法を使用して、より詳細な予測手法の構築も並行して検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室の教授が退官し研究設備の再構築のエフォートが発生したため、研究の効率化を目的として技術補佐員を雇用した。反面、旅費はコロナ禍のため使用額が抑えられた。また物品費は昨年度購入した消耗品類で間に合ったため購入を控えた。翌年度の成果報告の旅費、および不足する消耗品費として使用したい。
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