本研究では、高い特性を担う磁性材料の開発を目的として、第一原理計算に基づく原子スケールでの組織予測とその結晶構造から予測される物性値をもとに材料探索を行った。 BCC-Fe 中でナノクラスターが生成する傾向が高い元素の組み合わせを第一原理計算を利用して選別を行った。置換型溶質原子と侵入型溶質原子からなる組み合わせでは侵入型元素の拡散速度の高さから微細なクラスターが生成することが実験的にも明らかとされている。本研究では溶質間相互作用の評価も行い、それらをモンテカルロ法に基づく組織シミュレーションに導入することでクラスターのサイズや形状の予測を行う手法の開発も進めてきた。2020 年度は置換型溶質原子と窒素との実効的な相互作用を評価する目的で、化学ポテンシャル法に基づくモンテカルロ計算から拡散対実験を模倣したシミュレーションを行った。2021 年度は板状のナノクラスターを形成すると予測された Fe-M-N 三元系においてボールミルによる試料作成を実施した。ひずみを持った BCC 過飽和固溶体の合金粉末を得ることができ、さ らにそれらを時効して溶質原子を拡散させた。時効温度/時間に対して過飽和固溶体から準安定窒化物が生成する結果が得られた。 最終年度の2022 年度は本研究が開発した組織シミュレーションを具体的な材料設計に活用する目的で、得られた組織モデル中に含まれるクラスターの数密度や形状 (アスペクト比) を統計的に解析する手法の構築を行った。これにより添加元素の効果を定量的に比較することが可能となった。また本計算手法は金属中で発達する短範囲規則化の問題を広く対象とすることができるために、ハイエントロピー合金のような異分野の課題研究にも応用することができた。それらの成果を物理学会およびMRS国際学会で報告した。
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