研究課題/領域番号 |
20K05059
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小池 邦博 山形大学, 大学院理工学研究科, 准教授 (40241723)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | SmFe12 / Sm(FeCo)12 / Sm-Fe薄膜 / 薄膜磁石 / 保磁力 / 結晶磁気異方性 / 局所磁気異方性 / 界面制御 |
研究実績の概要 |
R2年度の課題研究では,Smの局所磁気異方性がSmFe12系合金の保磁力に与える影響を明らかにするための第一段階として実施されたUHV成膜実験において,ThMn12構造のc軸垂直配向したSmFe12合金薄膜の形成条件の獲得に成功した.その磁気特性は,as-grown状態で垂直磁気異方性と保磁力を発現しており,本研究課題で提案しているSmFe12相とα-Fe相との界面が形成されている可能性を示唆した.このことから,R3年度では,その微細組織を明らかにするために,高分解能TEM観察・解析と組成分析を進めた.その結果,基板温度を410℃として成膜した場合,単結晶Mo下地層の上に山脈状組織を有するα-Feが形成し,さらにこの上に幅30 nmから50 nmで高さが100 nm程度のナノオーダーサイズのSmFe12柱状組織の生成を確認した.また,制限視野電子回折像の解析から,基板からの各層のエピタキシャル方位関係として,MgO(001)[100]//Mo(001)[110]//Fe(001)[110]//SmFe12(001)[100]であることを明らかにした.この薄膜の保磁力機構について薄膜の形状磁気異方性と結晶磁気異方性の競合状態を取り入れた拡張型Kondorskyモデルによって解析できることを確認した.これらのことから,理想モデル磁石を形成するための準備段階として得られたSmFe12合金薄膜は,柱状構造のSmFe12ナノ磁石粒子同士が完全な磁気的孤立状態ではなく結合した状態となっており,磁化反転過程において,磁壁のピン止めに支配されていることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R2年2月初頭に起きた震度5弱の地震の影響でUHV成膜装置のターボ分子型排気装置が故障した他,R3年度の研究スタート時期の4月から5月の間もコロナ禍の影響があり,所属大学での成膜実験研究の実施が困難な期間が数ヶ月あったため,課題研究の進捗に大きな影響が出た.しかしながら,その間に,MgO(001)/Mo上に形成されたSmFe12薄膜の高分解能TEM観察・解析と組成分析を連携研究者である九州大学板倉グループとの協力の下で進めると共にその保磁力機構について解析実験を行い,微細組織との関連を考察した結果,両者に因果関係を確認した.この研究成果は,R3年12月応用物理学会東北支部学術講演会において「SmFe12系薄膜の磁気特性」として発表された.さらにUHV成膜装置の修理と成膜条件の再現実験を行い,c軸配向した垂直磁気異方性を有するSmFe12相を得ており,これと同時に柱状構造のSmFe12ナノ磁石粒子を物理的・磁気的に孤立化のための基礎実験を進め,赤外レーザーによるFe基ネオジム系ナノコンポジット積層磁石膜の急速結晶化によるハード磁性の発現に成功した成果を米国物理学会協会のオープンジャーナル「AIP Advances」で公表した.また,ハード相としてSm(FeCo)12ナノ磁石粒子へソフト相としてα-Fe相を接合したナノコンポジット構造をもつナノ磁石粒子の磁化反転過程をマイクロマグネティックスシミュレーションによって考察することで,永久磁石にとって重要な特性である最大エネルギー積(BH)maxを向上させる知見を得るに至った.
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今後の研究の推進方策 |
R3年度の研究成果は,当該研究を実施した米沢地区の地震やコロナ禍の広がりのために,その進捗に大きな影響があった中,連携研究者のとの共同研究によって本研究課題で提案しているSmFe12系相とα-Fe相との理想界面形成のための第一段階として設定していたエピタキシャルSmFe12膜の形成を実証できた.R4年度は,予備実験によって得られた柱状構造のSmFe12ナノ磁石粒子を物理的・磁気的に孤立化させる条件を基にしたSmFe12系相とα-Fe相との理想界面形成を試み,高分解能TEM観察・解析と組成分析を連携研究者等の協力の下で進め,更なる保磁力の増大を可能とする界面状態や微細組織を明らかにするための研究を進める予定である.また,さらに両相の交換結合状態を明らかにすると共にマイクロマグネティックシミュレーションによって明らかになった最大エネルギー積(BH)maxを向上させる知見の適用を実験系へ試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
R2年2月初頭に起きた震度5弱の地震の影響でUHV成膜装置のターボ分子型排気装置が故障した他,R3年度の研究スタート時期の4月-5月もコロナ禍の影響があり,所属大学での成膜実験研究の実施が困難な期間が数ヶ月あったため,課題研究の進捗に大きな影響が出たことから,一部の研究計画をR4年度へ先送りし、予算を執行する.
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