研究課題/領域番号 |
20K05060
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
西野 洋一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50198488)
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研究分担者 |
宮崎 秀俊 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10548960)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ホイスラー合金 / 熱電変換材料 / 擬ギャップ / ゼーベック効果 / 電子構造 / 元素置換 / 非化学量論組成 / 熱伝導率 |
研究実績の概要 |
擬ギャップ系Ru基ホイスラー化合物について、元素置換や非化学量論効果を利用して擬ギャップ内のフェルミ準位を最適化することで熱電性能の向上を図った結果、以下の成果が得られた。 1. Ru2TiSiは700Kでゼーベック係数185μV/Kを示すp型材料であるが、Ta置換したRu2Ti1-xTaxSiはn型になり、x=0.03の合金では680Kで-155μV/Kを示し、Ta置換量とともにピーク温度は高温側にシフトしていく。光電子分光測定により、Ta置換量の増加とともに価電子帯光電子スペクトルは全体に高束縛エネルギー側にシフトすることが確認されたことから、Ta置換によりフェルミ準位のみが剛体バンド的にシフトするような電子構造変化に起因する。 2. ホール効果測定の結果、Ru2TiSiの300Kでのホール係数RHの符号は正で、多数キャリアはホールである。RHは10-8 m3/Cのオーダーであり、通常の金属よりも2桁ほど大きく、Sbのような半金属と同程度である。RHから算出したキャリア濃度は9.14×1019 cm-3であり、Fe2VAlの1/4程度である。一方、Ru2Ti0.97Ta0.03SiではRHの符号は負となるので、多数キャリアは電子であり、ゼーベック係数の符号の変化とも対応している。また、Ta置換とともにキャリア濃度が増加することから、上記のフェルミ準位のシフトに起因している。 3. Mo置換した合金Ru2Ti1-xMoxSiでは、RuとMoの化合物がわずかに析出し、電子ドープにもかかわらずp型のままである。しかし、化学量論組成からのずれも生じており、電気抵抗率は半導体的挙動を示すとともに、ゼーベック係数はx=0.03において500Kで240μV/Kに達した。x=0.06の合金において出力因子は1000Kで5×10-4 W/mK2となり、Ru2TiSiよりもp型性能が向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ru2Ti1-xMxSi合金(M = V,Nb,Ta)について光電子分光測定を行った結果、価電子帯および各元素の内殻状態の光電子スペクトルにおいて、Nb,Ta置換では置換量に応じてほぼ同様の変化が見られ、剛体バンド的なフェルミ準位のシフトを示している。一方、V置換ではNb,Ta置換と比較してスペクトルのシフト量が異なっており、非剛体バンド的な変化が示唆された。このため、V置換した合金では負のゼーベック係数の大幅な増大が見られない可能性がある。バンド計算および熱電特性の比較から、Nb,Ta置換の場合は擬ギャップ構造を活かしたp-n制御が可能である。このように置換元素の種類によって、フェルミ準位近傍の価電子帯や伝導帯にわずかな差異が生じる可能性があり、これを利用した電子構造変化による材料設計が熱電性能の向上には有効である。 一方、Ru2TiSi系と比較して、Fe2VAl系ホイスラー合金ではn型の熱電性能に比べてp型が低いことが問題となっている。そこで、p型で高い出力因子を示すFe2V1.08-xTixAl0.92をベースにして、FeをReで10%部分置換した合金Fe1.90Re0.10V1.08-xTixAl0.92を作製して熱電特性を調べた。その結果、出力因子にあまり影響を及ぼさずに熱伝導率を300Kで4W/mKまで大きく低減させることに成功した。これは、Reによる重元素置換の効果だけでなくFe,V,Al三サイト同時置換の効果によるものであり、とくにx=0.26の合金では400KにおいてZT=0.24に達しており、これまで報告されたp型Fe2VAl系合金のなかで最高性能が得られた。これに対して、p型Ru2TiSiでは400KのZTは低いが、1000KでZT=0.42を達成している。
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今後の研究の推進方策 |
1.本研究では、Ru2TiSi系化合物についてゼーベック係数の増大機構とピーク温度の上昇機構を解明することも目的としており,高分解能光電子分光実験が有力な方法である。これまで,放射光を利用する光電子分光測定を行い,Fe2VAlにおける低エネルギー電子構造と熱電性能との関連性について研究成果をあげてきた。本研究では,Ru2TiSi系化合物について良質の単結晶試料を作製して,角度分解光電子分光の実験によりバンド構造やフェルミ面を実験的に描き出すことで,Fe2VAlと対比して熱電性能向上の起源を明らかにする。 2.重元素ドープによる格子熱伝導率低減メカニズムを明らかにするために、置換元素周辺の局所的な格子ひずみによるフォノン散乱の寄与について広域X線吸収微細構造(EXAFS)を利用して解析する。さらに、Taドープした合金について非弾性X線散乱測定IXS)により熱伝導を担うフォノンを直接観測する。TaドープしたFe2VAlでは、重元素の共鳴モードが現れることが示唆され、これが格子熱伝導率低減に寄与している可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対策により、放射光による高分解能光電子分光測定の実験を予定通り行うことができなかったため、電子構造の検証が困難になった。この結果に基づいてゼーベック効果をより精密に測定できる加熱冷却器の機種選定を行う予定であったが、年度内に機種決定を行うことができなくなり次年度に購入することとした。そこで今年度は、ホール効果測定などを利用して電子構造の研究を行った。 また、新型コロナウイルス感染症対策により、国内の学会発表がオンライン開催となったため国内旅費が不要となったほか、国際熱電会議についても同じ理由により開催延期になったため外国旅費が不要となった。そこで次年度の国内旅費及び外国旅費として使用することとする。
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