研究課題
前年度までの研究から得られた知見から、フォノン熱伝導を中心に階層的構造の役割が明らかとなってきた。既存の物性理論ではフォノン散乱因子の加算則を仮定した理解が主であったが、長さスケールの異なるフォノン散乱因子が共存する場合にはぞれぞれの散乱因子に加算則が成立せず、またフォノン平均自由行程で議論することは適切ではないことが明らかとなり、階層的構造によるフォノン状態の変化に注目しなければならないことが明らかとなった。そこで最終年度となる本年度は、注目する伝導特性を電子伝導とし、階層的構造が電子伝導に与える影響を明らかにすることを試みた。研究遂行により、多元系特有の異なるカチオン種間の軌道間相互作用により電子状態自体が大きく変わっていることが明らかとなった。これは前年度までに明らかにしたフォノン状態の変化と似通っているといえる。加えて、カチオン種によりフェルミ準位を基準としたエネルギー分布が異なり、電子伝導に寄与するカチオン種と電子伝導には直接寄与しないが構造あるいは結合歪みを通じて間接的に寄与するカチオン種に分かれることが明らかとなった。他方、不規則相をモデル化し、統計精度を確保した上で電子伝導への影響の定量評価を行った結果、不規則相の方が規則相よりも電子伝導性が向上するという条件が見いだされた。これは従来の単なる平均自由行程では説明し得ないが、本研究を通じてフォノン熱伝導について得られた、階層的構造が散乱状態の変化をもたらすのみならず基となるフォノン状態の変化をももたらすことと相通じた理解ということが出来る。本研究を通じて、これまでは議論の礎となっていた平均自由行程という従来理論の枠組みを超え、電子・ホールあるいはフォノンといった各伝導特性のキャリアの定在状態の変化が伝導特性を大きく変化させ、これを念頭に階層的構造を設計することが非常に重要であることが明らかとなった。
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